この手に届かないのならば
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれからどれ程時間が過ぎたのでしょうか。
ついに兄とミーティア姫の結婚式が執り行われる事になりました。
私は大聖堂へ向かう馬車に揺られながら、あの日の事を思い返しておりました。
あの影に全てを差し出せば、私はエイト様の元へ行ける。
けれど、エイト様の行方も分からないのに?
それに彼にはもう想い人がいる。
どうしようもないじゃないですか……。
すっかりやせ細った私を兄が心配そうに眺めてきました。
先ほどまではニヤケ顔だったというのに。
私の事など放っておいて、さっさと結婚すればいいのです!
大聖堂に着くと、なんとエイト様がいらっしゃいました!
どうやらエイト様はトロデーンの使いの方だった様なのです!
彼の横にはあの女性の姿もありました。
分かっておりましたが、改めて見てしまうと苦しくなってしまいます。
「エイト様……」
「ルシア様もいらっしゃっていたんですね、ご無沙汰しております」
嫌味をかましていたお兄様を押しのけて、私はエイト様の前へ行きました。
真っ直ぐな瞳を優しく細めて私に挨拶をしてくれました。
そんなお顔をされたら私、悩殺されてしまいそうです……!
既に手遅れなのかもしれないですが。
少し会話を楽しんだ後、私は家来に連れられて今夜の宿へやって参りました。
夜も大分深まり、私は眠れずにいました。
当然ですよね、宿を抜け出せば会える距離にエイト様がいらっしゃるのですから!
すると、テラスから話し声が聞こえてきます。
私は気付かれないよう背後に忍び寄り、耳を澄ませました。
どうやらお父様とエイト様がお兄様の結婚についてお話をしている様でした。
まぁ、あんな兄ですものね。
エイト様が不安になるお気持ちも十分理解できます。
そして、エイト様は自分の胸の内をお父様に打ち明けられておりました。
ミーティア姫の結婚には反対しているものの、自分には他に想い人がいる、と。
それが誰の事だか私はすぐにわかりました。
チクリ、と胸が痛みました。
同時に自分が今なすべき事を自覚致しました。
私は急いで自室へ戻り、あの首飾りを握りしめて強く念じました。
するとあの影が姿を見せたのです。
「決めました。……私の全てを捧げます。ですから……」
『畏まりました』
影が不気味に微笑みました。
すると、手にしていたネックレスが赤い光を放ちました。
同時にその光は私の胸を貫きました。
痛みと苦しさに私はそのまま意識を失ってしまったのです。
「んっ……」
私が目を醒ますと、目の前に私そっくりな人が佇んでおりました。
「大丈夫ですか?お加減は?」
「うっ……大丈夫、です……」
痛む頭を抱えつつ、その者の手を借りて私は辺りを見回しました。
私たち以外は誰もいない様でした。
「契約通り、今日から私がルシアとして生きていきます。貴女は貴女の想いを果たすと良いでしょう」
そう言って、彼女は私に一本の剣を差し出しました。
「それはこれから先、貴女が生きていく為の力です。餞別に差し上げましょう」
「ありがとう、ございます……」
鞘に納められた剣を少しだけ引き出してみます。
刀身に映った私の顔は、酷いものでした。
青白い肌に、血のような赤い瞳。
その姿に背筋が凍ります。
慌てて鏡の前に立ちました。
確かに容姿は私のままなのですが、アクアマリン色だった私の瞳は赤く、不思議な輝きを宿しておりました。
「大丈夫、魔に堕ちても貴女は美しいわ」
「……私、行きますね」
私と同じ姿をした者がそう慰めてくれましたが、あまり耳に入りませんでした。
これで私は自由の身。
後はエイト様に想いを伝えるだけ……!
エイト様……只今お傍へ参ります!
お父様とのお話を終えて、外を歩いているエイト様を見つけて私は声を掛けました。
「エイト様……!」
「……どなたですか?」
見た目は変わっていないというのに、エイト様は私が分からない様でした。
全てをあの方に差し出した私には存在が無くなってしまった、という訳ですね。
ですが、今更それくらいの事でこの想いは潰えません。
「以前、お見かけした時から……貴方をお慕いしておりました!どうかお願いです!私と共に生きてください!」
エイト様の手を握って懇願してみますが、彼は無表情でそれを振りほどきました。