この手に届かないのならば
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「あら?あれは……」
いつもの様に外を眺めていると、なんという事でしょう!
エイト様です!
何かの用事でこの町に立ち寄られたのでしょうか。
私は嬉しくて小躍りしながら使用人の目を盗んで城を抜け出しました。
城下町へ出て必死にエイト様を探しました。
すると、お供の女性の方と何やら話し込んでいるエイト様を発見致しました。
声を掛けようかどうしようか悩んでいると、女性の方が急にエイト様との距離を詰めました。
そして、二人は口付けを交わしました。
目の前が真っ暗になりました。
以前お会いした時はそんな様子はありませんでしたのに。
あれから大分時間が過ぎておりますもの、仕方のない事ですわね……。
折角彼を見つけられたのに。
私は成す術もなく、城へと引き返しました。
部屋にいた使用人を全て出払って、私は一人、ひたすら泣きました。
自分の立場をただただ呪いました。
そもそも、彼と私では生きる世界が違うのです。
狭い世界で囲まれて生きる私と、広い世界を自由に行き来できるエイト様。
私も出来る事ならば、そちら側の人間になりたかった。
あなたについて行きたかった。
私は毎日泣き続けました。
部屋にこもって泣きはらしている私を心配して、お父様やお兄様が様子を見に来てくれましたが、私の傷は癒える事はありませんでした。
そんなある日の夜の事でした。
泣き疲れて眠っている私に誰かが語り掛けてきます。
『ルシア……ルシア……』
聞いたことのない声に、私は目を醒まして部屋の中を見回しますが、誰もおりませんでした。
気のせいだったのかと、私は再び瞳を閉じますが、またあの声が私の名前を呼んでおりました。
不思議に思って身体を起こし、広い室内を歩き回って私は声の主を探しました。
すると、月の光に照らされて私から伸びていた影が形を成して私の前に現れました。
驚いて部屋から逃げようとする私を影が捉えます。
「な、何ですかあなたはっ……」
『嘆きに沈むお姫様、私と取引しませんか?』
「取引、ですか……?」
頭にこびりつく様なその声は私の心の中へ入り込もうとしてきます。
私はなんとか自我を保ちながら、その声を聴いていました。
『あなたはあの男が欲しいのでしょう?……ならば、貴女の全てを私に下さい。そうすれば貴女の望みを叶えましょう』
「私の全て、ですか……?」
『全て、と言っても貴女の姿を映させて頂き、貴女のこの生活を手に入れたいのです』
私の生活。つまりこの者は私の容姿と立場を欲しておられると。
「……今すぐには決められません、考える時間をください」
『畏まりました。では、お決めになったらいつでも呼んでくださいね』
そういうと影は私に赤い宝石をあしらった首飾りを渡してきました。
この首飾りに念じれば、この者は姿を見せるとのことです。
影が消えた後も、私はただただ悩みました。