この手に届かないのならば
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「ルシア様?聞いておられますか?」
「ええ、ちゃんと聴いているわ」
テーブルの上にきっちりと並べられた見合い写真を前に、私は心底ウンザリしておりました。
一つ違いの兄が他国の姫君を嫁に迎えるからお前もそろそろだ、なんてお父様に言われてしまってからというものの、毎日毎日、飽きずにこんな写真ばかりを眺めさせられて。
こんな事なら、自室の窓から外の景色を見ている方が断然マシ。
溜息を吐きながら写真を手にとっては捨てている私を、使用人が呆れた様子で見ておりました。
「……気分が優れないので部屋に戻らせて頂きますわ」
愚痴を言われる前に私はすかさず言葉を挟み、その場を後にしました。
そんな時でした。
あの方をお見かけしたのは。
あのお方は何か込み入った事情があるらしく、我が国の家宝の魔法の鏡を求めてこの城を訪れたとの事でした。
どうせ使わないのだから、素直に差し上げれば良いものを。
お父様も意地の悪い方ですこと。
挙句の果てには出来の悪い兄の世話まで頼んで。
妹として合わせる顔がありません。
そんな事よりも、あのお方のお名前はなんていうのかしら?
私は自室へ戻らずに場内をウロウロ彷徨っていると、お父様に命じられて兄を探し回っているあの方と鉢合わせてしまいました。
「旅のお方、初めまして。妹姫のルシアと申します」
会釈を交えながら挨拶をすると、あの方は少し照れたように頭を下げました。
なんて綺麗な瞳をしているのかしら!
今まで見てきたどんな宝石よりも素敵です!
「ルシア様、初めまして。エイトと申します。失礼ですが……チャゴス王子を見かけませんでしたか?」
「え?ああ、えっと……ごめんなさい、私は見ておりませんの」
「そうですか……」
「お力になれなくてごめんなさい。不甲斐ない兄ですが、よろしくお願い致します」
胸が高鳴ってしまってこれ以上会話を続けるのが難しくなってしまい、私は逃げました。
エイト様……。
嗚呼、なんて素敵な方なのでしょう!
これぞ一目惚れというものですわね!
大量の見合い写真の中に彼の写真があったなら、私は真っ先にそれを手にしますのに!
それから王家の山へ向かわれるエイト様達をこっそり見送りました。
翌日、お兄様は立派なアルゴンハートを持ち帰られました。
しかし私はそんなものには目もくれず、ずっとエイト様を見つめていました。
はぁ。私が長男であったのなら、エイト様達と王家の山へ行くのは私の筈だったのに!
……そもそも、トカゲの一匹や二匹くらい自分で仕留められると思いますけれども。
寧ろこれは、お兄様が居てくれたから私はエイト様と巡り会えたのでは?
フフフ、あんなお兄様でもたまには役に立つのね。
城を去っていくエイト様を私は自室の窓からずっと見ておりました。
そんな私の様子を見て、使用人は流石に気づいてしまったのでしょう、小さな声で「姫様、いけません」と牽制されてしまいました。
そんな事、言われなくてもわかっております。
私はだらしないお兄様と違って自分の立場をある程度は理解しておりますから。
それでも私はエイト様を忘れる事などできませんでした。
一緒にいた女性との関係は?
エイト様はどなたかに好意を寄せられているのでしょうか?
そんなことばかりを考えて、毎日胸が苦しくて、張り裂けてしまいそうでした。
お父様に無理矢理見合いをさせられたりもしましたが、どうしてもエイト様を想う気持ちが勝ってしまって
相手方に失礼な態度をとってしまったり、急に泣き出してしまったりしたせいでしょうか、暫くの間見合い写真が出てくる事は無くなりました。