暗い檻の中で
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「もう少しっ……頑張って」
「……エイト、ありがとう……」
指先が微かに触れたかと思いきや、ルシアはそっと手を退いた。
諦めてしまったのか?
そんな考えが頭を過り、エイトの表情が強張る。
けれど、ルシアは笑っていた。
「……私も、もっと頑張ってみようかな?みんながそうしているみたいに……」
ルシアが呪文の詠唱を始めるなり、視界が一気に弾けとんだ。
怨霊達の声も、真っ暗な空間も全て消しとんで。
目に入るのは、いつもの様に笑うルシアと
硬く結ばれた手と手。
気付けば宿の一室へと戻ってきていた。
「あっ……あれ?」
「ルシア!!」
上半身を起こし、エイトの手を取ったまま固まっているルシアにゼシカが勢いをつけて飛び付く。
「もうっ!心配したんだから!一生目を覚まさなかったらどうしようって、私……何度も……」
「ごめんなさい……でも、もう大丈夫!」
「ホントか?またこんな事になったら厄介だしな。ルシアは二度と寝るな!!」
「え、それはちょっと……」
ククールのキツイ冗談に助けを求めるようにエイトに視線を送ると、あろう事かククールの意見に同意している様で、コクコクと頷いていた。
「もう夢に囚われたりしないってば!……多分」
「多分!?……軽薄なククールと意見が合うのは不本意だけど、ルシアは寝ない方が良いわね」
「決まりでげすな!」
「ゼシカとヤンガスまで……」
この場に味方はいないと悟ったルシアが肩を落とすと、みんなから笑いが溢れる。
そんなみんなの様子から、一体自分がどれだけ心配をさせてしまったのかを伺いしれて、ルシアは猛省した。
「王様達にも迷惑かけちゃったし、謝って来るね」
一刻も早く元の姿に戻りたい筈なのに、自分のせいで時間を無駄にさせてしまった。
ルシアがベッドから立ち上がろうと身体に力を入れるけれど、ずっと眠っていた為か思うように成らない。
困惑している彼女を前に、ゼシカが呆れてため息を吐く。
「今までずっと寝てたんだから、無理しちゃ駄目よ」
「で、でも……」
「だったらエイトにおんぶして貰ったら?」
「それは駄目!これ以上迷惑かけられないよ!」
ブンブンと両手を振り全力で遠慮を示すルシアの前でエイトが背中を差し出す。
「遠慮しないで?病み上がりなんだしさ」
「俺の背中がこ希望だったりして?」
「……ククールはヤンガスでも背負ってなさい!」
エイトの隣で彼と同じように身体を屈めていたククールの背中にヤンガスの巨体がのし掛かる。
「重っ!窒息するから今すぐ退け!」
「危なくなったら薬草使ってあげるわよ」
「薬草じゃ癒えねぇよ!」
ふざけ合う三人を尻目に、ルシアはお言葉に甘えてエイトの背中に身を預けた。
なんだか気恥ずかしくて、ルシアの意思とは裏腹に胸の鼓動が高鳴る。
それが彼に伝わってしまうのではないかと内心気が気でない。
「あの……重かったら落として良いからね!」
「全然重くないから大丈夫だよ」
宿を出て、町の外に出るとやっぱりというか人目を引いてしまって恥ずかしさは増すばかりだ。
まだ朝早い為か、人手はとても疎らなのだけれど。
「……ルシア、ドキドキしてるね。心音がよく聴こえてる」
「え……だ、だってっ……こんなの恥ずかしいに決まってる……!」
まさか指摘されるとは思ってもみなかったので、ルシアは顔を真っ赤にしてなんとか弁解しようと考えを巡らせる。
けれども、結局何も言い返せなかった。
「ふふふっ……そういう可愛い所、良いと思うよ」
「ちょっ……!?まさか私が寝ている間にククールに感化されたんじゃ……!!」
「それは無いから安心して」
エイトが少しだけこちらを見返して微笑んだのが見えた。
気のせいかもしれないけれど、彼の頬も微かに赤らんでいたような気がする。
彼は今一体どんな表情をしているのか確かめてみたいけれど、状況的に無理だ。
「あ、そうだ……ドルボードがあった!町の外に出たらそっちに乗るから」
「いいよ、このままで。……もう、いなくなったら嫌だからね」
「え?」
一瞬意味が分からずにきょとんとしていると、エイトの笑い声が聴こえて来る。
「ルシアの今の顔が目に浮かぶよ」
「エイトったら、いつからそんなに意地悪になったのかしら」
「たまには僕だって、小言の一つも言いたくなるんだよ?……本当に、心配したんだからね。何より、自分に腹が立った。どうして気付いてあげられなかったんだろうって……」
「そんな……エイトは悪くないわ!他人の気持ちなんて、全部は分からないものだし……何より私が未熟だったからこんな事に……」
今度こそ言い返してやろうと思っていたのに、エイトの声があまりにも真剣だったから、またルシアは彼のペースに呑まれて行く。