暗い檻の中で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ハープの澄んだ音色から紡ぎ出される幻に、4人は息を呑んだ。
真っ赤に染まった空には無数の魔物が飛び交っている。
炎に包まれた村に、呆然と立ち尽くす人影が三つ。
その内の一人に、巨大な炎が迫っていた。
『お姉ちゃん!!……駄目っ……いやあああっ!!!』
ルシアの悲痛な叫びが響く。
聴いたことのないその声に、背筋に冷たい汗が伝う。
「これって……ルシアの……」
話で聴くのと実際見せられるのとでは全く印象が違った。
無惨に転がった村人の亡骸、そしてこれから死を迎えるのであろうルシア。
目を背けたい筈なのに、何故だか知らないといけない気がして。
『……なんで、どうしてっ……花があれば、私達は助かるんじゃなかったの……?』
『ルシアさん……この花は僕が命にかけてでもお婆様に届けます!』
『……シンイ……分かった、気を付けてね……』
炎の中に消えていく背中を見つめているルシアの背後に魔物が近付く。
『どうしてこんな酷い事をっ……絶対に、絶対に許さないっ!』
剣を抜いて魔物と対峙するも、呆気なくあしらわれてしまう。
『みんなを返してっ……返せ!!』
ケラケラと魔物達の笑い声が響く。
魔物の群れを掻き分けるようにして、冷酷な声が聴こえて来た。
そして、彼女に迫る炎の球。
敵の大将が放った魔法はルシアの身体を容易く呑み込んでいった。
『みんな……ごめんなさい……』
辺りが急に真っ暗になり、か細い声が聴こえて来る。
『お前も……死んでしまえば良かったのに……』
「……何?」
これで記憶は終わりかと思っていた中に、恨めしそうな低い声が辺りに木霊する。
ゼシカは知らず知らずのうちに流していた涙を拭いながら、そっと耳を澄ませた。
『ゼシカ……ゼシカ……』
「この声……まさか兄さん!?」
「ゼシカ!聴いたら駄目だ!」
声の危うさに気付いたククールがゼシカに駆け寄って耳を塞ぐ。
『死ね……みんな死ね……』
『苦しイ……苦しイ………』
「私が無力だったから……赦して……ごめんなさい………」
「ルシア!どこにいるの!?」
周囲を見渡してもルシアの姿は見当たらない。
ゼシカとククール、そしてヤンガスの姿ははっきりと確認できると言うのに。
いつからか微かに響いていたイシュマウリの奏でるハープの音色が聴こえなくなっていた。
代わりに怨霊達の呪詛の言葉が段々と強く聴こえてくる。
生者を引きずり込もうと伸びてきた黒い手がエイトの腕を掴んだ。
「まずい……早くなんとかしないと……」
怨霊を払いながらルシアの姿を必死に探していると、微かに光が漏れている場所を見つけた。
そちらを目指して歩いて行くと、少しずつ光の形が姿を成していく。
「ルシア……」
黒い繭の中に蹲っているルシアの姿を捉えた。
エイトがそっと手を伸ばしてみるけれど、何かの力で弾かれてしまう。
「君は、ずっとそこでそうしているの……?」
エイトの言葉に、微かにルシアの身体が揺れる。
「君がここで折れたら、お姉さんはどうなるの?誰が助けるの?」
「……私、ずっと後悔していた……どうしてあの時、姉に時渡りをさせてしまったんだろうって……お姉ちゃん、きっと私の事恨んでる……私の事なんて嫌いになってる……」
「ずっと……その事を考えていたの?」
「私が助けに行ったって、喜ばないかもしれない……元々、追ってくるなと言われていたから。怖い……拒まれたらどうしよう……?なんて言葉をかければいいの?そんな風にグルグル考えていたら知らない世界に来ていて、お姉ちゃんからもっと遠ざかって……」
震えるルシアの姿を見ていて、感情が負の連鎖に陥ってしまったから呪の侵蝕が始まってしまったのだとエイトは感じた。
どうして普段からもっと話を聞いてあげられなかったのだろう。
一瞬そんな後悔が胸中を過ると、より一層呪詛の声が近くで響いた。
「ルシア……」
ふと背後を見ると、ククールやゼシカ達の姿が視えなくなっていた。
もしかすると、これ以上は危険だと判断したイシュマウリが撤退させたのかもしれない。
となると、ここから彼女を引きずり出せるのはエイトだけだ。
「大丈夫、お姉さんだってきっとルシアを待ってる。君を危険な目に遭わせたくないからわざと突き放したんだよ」
繭の中のルシアが顔を上げて此方に視線を向けたのが視えた。
「誰だって自分の妹が死ぬかもしれない、なんて忠告されたらそりゃ来て欲しくないでしょ?……それでも君は行ってしまう訳だけど」
「私はお姉ちゃんに会いたいから……会って、謝らなきゃいけないから……」
「だったらこんな所にいたらいけないよ。もしも不安があるのなら……僕も一緒に行くから。ほら、こっちに手を伸ばして?」
エイトが手を差し出すと、繭の隙間からルシアの白い手が伸びてきた。
けれど、怨霊達は簡単にルシア達を逃がそうとはしない。
気が付くと、エイトの身体にも無数の黒い手が触手の様に這い回り、身体を囚われていた。