海上に揺らめく思い・前編
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「姫は国の為にその身を魔の者へと捧げたのです。魔の者は姫を天高く聳える塔へ閉じ込めました。愛する者を想い奏でられる歌声が、風に乗って聴こえて来ます」
「……おーい、姫?」
「……え?あれ、私の台詞あった?」
「愛しのストラウド様~だろ?」
「え?それって……もうちょっと後だったような……」
ククールが台本を示してルシアに台詞を確認させているのを眺めながら、長いナレーションを言い終えたゼシカが小さく息を吐く。
読んでいるだけでは身に付かないからと、結局全員を巻き込んで練習が始まった。
ゼシカやククールはルシア以上にやる気を見せており、軽い読み合わせ、というよりは最早完全に稽古の域へと達している。
「い……愛しのストラウド様!この身に何があろうとも、私は貴方だけをお慕いしております……」
「……あのなルシア。お前は恋い焦がれる乙女なんだぞ?」
「そうよ!恥じらいは捨てなさい!貴女はローザなのよ!」
「……ごめんなさい……」
肩を竦めてルシアは小さく息を吐く。
やっぱり引き受けなければ良かったと後悔しつつ、けれど投げ出す事も出来なくて、続けてくれるようゼシカへ視線を向けた。
それを受けて音頭をとっていたゼシカがスタート、と合図をする。
「……時は満ちた。か弱き人間の姫君よ、今こそ我と永遠を誓おう」
ククールがルシアの前に跪き、手を差し伸べる。
それがなんだかとても様になっていて、ルシアは思わずパチパチと小さく手を叩いた。
「……コホン」
ゼシカの咳払いを聴き、他人の演技に感心している場合ではないと、躊躇しながらもその手を取ろうとする。
けれど思い留まるように、伸ばしかけた手を引っ込める。
「矢張りできません……あの御方以外と契りを交わすなど……私には……。そんな事をするくらいなら、今すぐ、私をこの場で引き裂いて下さい!」
「……そうか、ならば無理矢理にでも我がモノとなってもらおう」
演技とはいえククールの悪人面はマルチェロのそれと何処か似ているなぁ等と失礼なことをぼんやりと考えつつ、一歩、また一歩と迫って来るククールを前にして、思わず身構えてしまう。
「ちょっとルシア!素が出てるわよ!構えちゃダメ!ちゃんと怯えて!」
「……き、きゃー!来ないでー!」
「随分余裕のある怖がり方でげすな……」
「こればっかりは仕方ないよね。散々死線をくぐり抜けて来たから、これくらいで怖がれって方が無理な気がする……」
当分出番が回って来そうにないと練習を傍観していたヤンガスとエイトが苦笑する。
取り敢えず部屋の隅まで追い詰められ、ククールに肩を掴まれる。
ここで一回目のキスシーンが入る訳なのだが、寸のところでルシアが顔を逸らした為ゼシカのストップが入った。
「ルシアったら、何照れてるのよ!」
「だ、だって……無理だよ、こんなの!ククールったら真剣な顔してくるんだもん!」
「あのなぁ、さっき別室でなんの練習してきたんだよ?それともあれか?俺の美貌にあてられたのか?」
「……う、うん……」
いつもだったらこんな冗談流せてしまうのに、状況が状況だけに素直に肯定してしまう。
顔が整っている人の恐ろしさを今になって痛感させられた。
そして、ククールが女の人にモテる理由が漸く分かった。
「……そこは正直に頷くのか。よし、なら配役を変えるか。この魔の者の役をヤンガスがやればそこまで緊張もしないだろ?」
手にしていた台本を広げながら、ククールはヤンガスの方へそれを寄越す。
ヤンガスは中身を見る事もせず、それをエイトへと回した。
「アッシはそんなクサイ台詞言いたくないでがすよ!」
「じゃあゼシカにするか?女同士なら平気だろ?」
「何言ってるの!元々男の人の役なんだから、いざ本番ってなった時に照れちゃうかもしれないでしょう?だったら今から練習を重ねておくべきだわ」
ゼシカの言い分は最もで、返す言葉もなくルシアは溜息を交えながら頷くことしかできなかった。
『海上に揺らめく想い・後編』へ続く。