コネクト~真実と疑惑~
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お屋敷の敷地内で起きた事だし、あの騒ぎの後に誰かに回収されたかもしれない。
もしも屋敷の人間が杖を拾ったのならその報告がハワードさんに上がっている可能性にかけて、私達はお屋敷を訪ねた。
ハワードさんは朝食を摂っている最中だった。
でも、どこか元気がないように見える。
「おお、お前達か。」
部屋の入口にいた私達に気が付いて、ハワードさんが声を掛けて来た。
「あの杖使い女を退治してからというもの、どうにも身体の調子が悪くてな。いや……悪いのは身体じゃなくて心の方じゃな。あれから胸騒ぎが止まらんのじゃ」
確かに顔色もあまり良くない様だし、調子が悪いのは本当だと思うけど。
……もしかして、今まで散々チェルスに酷い事をしてきた罰が当たったんじゃないのかな?
人を傷付けた報いだとしたら、これに懲りてもっとおおらかで優しい人になった方が良いと思う。
私が一人胸中で毒吐いていると、まるでそれが伝わってしまったかのようにハワードさんは「あまり人と話したくない」と言って私達は追い出されてしまった。
「あーあ、杖の事、訊けなかったな」
肝心な事を聞きそびれてしまい、ククールがぼやく。
もしかして、私のせい?私が胸中で悪口言ったから?
いやでも人にちょっと何か言われたくらいであんなにダメージ負う様なタマには見えないのだけど……。
仕方ないから一度お屋敷を出て町の人達にも杖の行方を訊いてみようと踵を返していると、勢いよくお屋敷の扉が開き、悲鳴と共に使用人が中へと駆け込んできた。
「誰かっ!誰か来ておくれ!!!チェ……チェルスが!!!」
チェルスさんの名前を聞いて、私達は何が起こっているのかを瞬時に理解した。
あの杖を手にした者に襲われているんだ……!
早く、早く行かないと!
みんなで屋敷を飛び出して、庭に出てみる。
すると、杖を咥えたあの黒い犬がそれをチェルスの身体に突き立てていた。
「チェルスさんっ……!!!」
私が駆け寄ろうとすると、チェルスさんの身体から杖が引き抜かれる。
地面に鮮血が拡がっていく。
『あと二人……これ以上邪魔はさせぬぞ……』
頭の中に直接そんな声が聴こえたかと思いきや、黒い犬は杖を咥えたまま俊敏な動きでどこかへと走り去って行ってしまった。
「しっかり……しっかりして……!今、回復を……」
チェルスさんの真っ赤に染まった腹部に手を翳す。
こんな状況なのに、私の手から癒しの光が発せられる事はなかった。
私ではダメ、そう思い顔を上げて傍らでチェルスさんの様子を伺っていたククールに顔を向けると、彼は無言で首を左右に振った。
「そんなっ……チェルスさん……」
「お……お願いします……レオパルドさまを……追いかけて、ください……」
血液が喉に詰まっているのか、チェルスさんは血を吐きながら言葉を紡いでいた。
私は彼が少しでも楽になれるようにと、膝にチェルスさんの頭を乗せる。
「レオ……パルドさまは……ハワードさま……が、心をひらける……唯一の、そんざい……だから……」
「あなたは……こんな時までっ……」
あんなに酷く虐げられていたのに?
どうして、そんなに……。
涙で視界が歪んでくる。
けれど、彼の最期の言葉を聞き届けようと泣き声を押し殺して私は耳を傾けていた。
「レオパルドさまが……いなく、なったら……ハワードさまが……ハワードさまがどんなに悲しむか……。……ハワード……さ、ま……」
「チェルスさん!……チェルスさん!!」
お屋敷の方へ力なく伸ばされた腕が、支えを失って地面に吸い込まれていく。
私はゆっくりとチェルスさんの頭を降ろし、胸の前で手を合わせて祈りを捧げた。
「チェルスさん……おやすみなさい……また、ハワードさんに会えるといいですね……」
目の前で命が消えた。助けられなかった。
ゼシカが肩を震わせて泣いている。
操られていたとはいえ一度は彼の命を奪おうとしていたのだから、この結末を彼女はきっと人より重く受け止めているのだと思う。
「こ……これは……これはどういうわけじゃ……!」
騒ぎを聞きつけたのか、ハワードさんがお屋敷から出てくるなり、チェルスさんの亡骸へ駆け寄る。
「チェルス……いや、偉大なる賢者クーパス様の末裔……わしは……わしは……。守り通すことができんかったのか……代々の悲願である因縁の呪を……」
ハワードさんのご先祖様は賢者クーパス様から呪術のチカラを継承して代々受け継いできたらしい。
力を受け渡したクーパス様はそのまま行方知れずとなってしまった。
そこでご先祖様が自分の一族に因縁の呪をかけた。
その呪いはどんなに時が過ぎても、クーパス様の末裔とハワード一族の末裔は必ず導かれて再び出逢えるように。そしてクーパス様の末裔を命を賭して護ってくれるように、そんな願いを込めて施されたものだった。
「……だが、強力な呪術のチカラに驕った我が一族は何時からか先祖の呪をも消しかけてしまった……。せめて、あと少し早くその事に気付いていればこうはならなかったのかもしれん……」
ハワードさんは心の底から自分のしてきたことを悔いている様だった。
散々酷いものを見せられてきたけれど、とても責める気にはなれなかった。