コネクト~閉ざされた刻~
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凄い、本当に海が蘇るんだ……!
そんな風に思った刹那、イシュマウリさんの演奏が止まってしまった。
みんなの視線がイシュマウリさんに向けられる。
「なんと月影のハープでも駄目なのか……これでは……」
月影のハープだけじゃ力が足りないのかな……。
よくわからないけど、唯一の希望を絶たれてみんなの表情が曇る。
と、急にお姫様が嘶き始めた。
イシュマウリさんに何かを訴えかけているようだ。
「……気付かなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね?」
お姫様の意思を汲み取ったイシュマウリさんが再びハープをかき鳴らす。
その旋律に添うようにして澄んだ歌声が響き渡った。
辺りが水に満たされていく。
ほんの一瞬だけど、馬の姿をしたお姫様に長い黒髪の女性が重なって見えた。
水の領界にいるのかと錯覚しそうになりつつ、現れた光の階段をみんなで登っていくと、船の甲板へ辿り着く。
まるで自分の意思を持ったかのように船はキラキラと輝く海面を進んでいく。
水底には微かにイシュマウリさんの姿が見えていた。
「さぁ、別れの時だ。旧き海より旅立つ子らに船出を祝う歌をうたおう……」
微かにハープの音が聴こえたかと思いきや、イシュマウリさんは姿を消した。
「……。」
少しずつ消えていく光の海を眺めながら、私は水の領界での出来事を思い返していた。
「……ヒューザ……」
「ヒューザって?」
「えっ……あ、なんでもないの!」
思わず名前を呼んでしまっていて、それをゼシカに聴かれてしまった。
慌てて誤魔化そうとしている所にククールも加わってきた。
この二人が揃うともう言い逃れはできそうにない。
「女の名前じゃなさそうだよな?」
「やっぱりルシア、好きな人居るんじゃないの?」
「ち、違うって!ヒューザはただの知り合い!そう、知り合いよ!」
「知り合いの名前呼ぶ時にそんな顔するかしらね?」
「想い人に逢えなくて切ないって感じだったな」
「……エイト!これからどうするの?」
私は詰め寄って来る二人に背を向けてエイトの方へ逃げた。
別に話したくない訳じゃないけど、何分話が長くなってしまうから……。
エイトは二人を撒いてきた私に特に何も言わず、淡々と空を仰ぎながら何処までも続く海を指差した。
「西へ行ってみようと思う。東の方にはもうドルマゲスはいないからね……」
「よし!皆の者、西じゃ!西を目指すぞ!」
どこかはしゃいでいる王様に苦笑しつつ、みんなで頷き合うと私達は西側の大陸に向けて出発した。
「そういえば、ルシアに初めて会った時は船の上だったわね。あの時は本当に驚いたんだから!いきなり割り込んできてあっさり魔物退治してくれちゃうし」
「あの時はこっちに飛ばされたばかりだったから……なんていうか、アストルティアでの能力がどこまで通用するのかが知りたかったの」
呪文も打てません、武技も使えませんだなんて生きていけなくなっちゃうものね。
結局スキルの縛りがなくて暴れ放題な訳だけど……。
あまり調子に乗って魔力を使いすぎないように気を付けないとね。
ゼシカと談笑していると、急に船が激しく揺れ出した。
危うく海に放り出されそうになりつつ、なんとか体勢を立て直して何事かと周りを見てみる。
甲板に魔物が上がってきていた。
船に乗っていてもやっぱり魔物とは遭遇しちゃうのね……。
愛用の杖を構えて、いつでも呪文を唱えられる様に支度をしておく。
幸い、そんなに強そうな敵じゃない。
予想通り、私の出る幕は殆どなく戦闘は終わった。
武器を収める面々をぼんやりと眺めながら、私も杖を収めた。
その刹那、辺りにどこかで聴いたことのある電子音が響き渡る。
新手が来たのかと、みんな収めたばかりの武器にそれぞれ手を掛けていた。
「あっ……もしかして!」
私が道具袋を開けきるよりも早く、白いぬいぐるみ……のような通信機が空へと飛び出していったかと思いきや、空中で弧を描いた後に私の右手にすっぽりと被さる。
「シオン様!シオン様でしょう!?」
『漸く繋がりましたね。全く、貴女の放浪癖もなかなか困りものです』
「放浪癖って……いや、それは良いとして!今、そちらはどうなっていますか?囚われた神の器達は!?」
可愛らしいペガサスの人形を揺さぶりながらずっと気になっていた事を問いただす。
完全にこの状況についていけてないエイト達は、ただこちらを見たまま固まっていた。
『酔うのであまり揺らさないでください!……ところでルシア、今何処にいるのです?随分遠くにいる様ですが……』
「それが……分からないんです……どうやら異世界に来てしまった様で……ルーラストーンも反応しません……途方に暮れていたら、あの人達が助けてくれたんです」
『ほう……?』
シオン様人形をエイト達の方へ向けると、みんなちょっと困った様子で軽く会釈をされた。
「あ……えっと、この人はシオン様って言って、いつも私に力を貸してくれたり知恵を授けてくれたりするお方なの。……言っておくけど、口パクで一人芝居してる訳じゃないからね!?」
エステラには完全に腹話術だと勘違いされているから、ここでは一応弁解しておく。
『……状況は分かりました。ルシア、あの方たちと共に行動していなさい。私の方でも何か出来る事がないか調べておきます。……貴女はアストルティアにとって、なくてはならない存在なのですから。くれぐれも無茶はしないようにしてくださいね』
「わかりました……」
動かなくなったぬいぐるみをしまいつつ、私はほっとした様な、それでも何処か落ち着かない不思議な感覚に囚われていた。