コネクト~幽玄の園~
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「私っ……わたしはっ……」
ゆっくりと迫って来るエイトの顔。
何か言わないといけないと思うのに、言葉が出てこない。
「エイトっ……」
……ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。
こんな想いを抱いてはいけないのに。
この世界に誓ったのに。
私はまた、約束を果たせなかった。
「んっ……んん……」
当たり前のように重ねられる唇。
……これじゃ駄目……。
嫌だって言わないと。
やめてって、伝えなくちゃ……。
「……ルシア、最終通告。君の気持ちをちゃんと教えて」
私の身体に跨り、逃げられないように両手を抑え込んだエイトが真っ直ぐに私を見降ろしている。
「ルシア、聞かせて」
半ば混乱している私に、間髪を入れずに返事の催促が来る。
「……わたしっ……私……」
声が震える。
もう何処へも行けない。
私の中で、気持ちを塞き止めていたものが音を立てて崩れていくのがわかった。
「わたしは……エイトを、愛しています……」
本心が、涙と一緒に溢れ出た。
結局自分が楽になれる道を選んでしまった。
安堵と同時に罪悪感が胸を満たしていく。
「……ルシア……。」
エイトは些か驚いた顔で此方を見据えていた。
直ぐに私の上から退いて、上体を起こしてくれる。
「ごめんね……なんか、脅迫したみたいになっちゃって……。泣かせたかった訳じゃないんだ」
「……うん……。」
そんなの私も解ってる。
エイトは私のどっちつかずな態度が気に障ってたんだよね。
だから、真意を問いただしただけ。
好きなくせに、嘘吐くなって事だよね。
「……でも、一緒には……いられない」
「……ルシア……」
「あなただって解ってる筈。私は帰らないといけない。でも、そこにエイトを連れて行く事はできない。あなたには、あなたのいるべき場所があるから」
半分くらいは自分に言い聞かせるように話していたと思う。
エイトは少し悲し気な表情で、私が涙を拭っているのを見つめていた。
「僕のいるべき場所って、何処なんだろう」
エイトがぽつりと呟くように言った。
「王様やお姫様のところじゃ不満なの?」
私がそう訊き返すと彼は腕組をしながら首を捻る。
「不満って言うか……僕は自分でその場所を決めたい。今の第一候補が、ルシアの隣」
「……じゃあ、第二候補は?」
「ルシアがいる世界」
「第三は?」
「ルシアの安否が解る場所」
「それって結局は……」
こっちに来たい、って事じゃない。
それじゃ駄目なんだって、どうしたら解って貰えるんだろう。
「エイトはこの世界が好きじゃないの?」
「わかんない。そんな広い目で好きとか嫌いとか、考えた事ないかも」
「私はアストルティアが好き。毎日たくさんの人が行き交って、みんな毎日一生懸命に生きてる。大変な事も多いけど、それでも……私の故郷だから。私の力を必要としてくれてる人達がいるから。だから、帰りたいの」
今まで出会ってきた沢山の人達の顔が思い浮かんでくる。
ダストンさんやマイユさん、ヒューザ、ラグアス王子、フウラちゃん、そしてアンルシア。
ヒメア様、ルシェンダ様も。
きっとみんな、私の帰りを待ってくれてる。
そもそも私がこんな事になってるだなんて知らないかもしれないけれど。
あ、だけどシオン様と白き導き手を通して連絡を取った訳だし、ルシェンダ様に報告がいってるよね。
「……ルシア、前に白い馬のぬいぐるみ持ってたよね。最近あれが夢に出て来るんだよ。ルシアをアストルティアから奪わないでくれ、って」
「え……。」
「ルシアがいないと困るって。ちゃんと返してくれって、ずっと言ってくる」
シオン様はカメ様で、私が子供の頃からの知り合い?って事になるし、なんていうかちょっと親目線になっちゃってるのかな。
それにしても、わざわざエイトの夢に出演しなくても良いんじゃ……。
「あんまりしつこいからさ、こっちもちょっとムキになっちゃって。ちゃんと幸せにするから安心してくれって言っちゃったんだよね」
「そ、それは……あんまり、よくないかも……。」
次にシオン様から連絡が来るのが若干怖くなった。
私が顔を引きつらせていると、エイトが少しだけ笑みを零す。
「……この辺の話はまた今度にしよう?今は現状維持ってことで、納得してくれると嬉しいんだけど」
「現状維持?」
「仲間以上、恋人以上……で、どうかな?」
「恋人以上?未満じゃなくて?」
「……これでもしっかり下心ありますから」
「あ、うん。じゃあそれで」
多くは訊かないでおこう。その方がいい気がする。
話がまとまった?ところで、エイトが私の身体を抱き締めながら「おやすみ」と言い残し、リビングを後にした。
……これからはずっとこんな感じ、なのかな。
とりあえず、良んだか悪いんだかは置いておこう。
少しだけ肩の荷が下りた私に睡魔が押し寄せてくる。
まだドキドキしている胸を抑えて、気持ちを落ち着かせてから私は元居た部屋へと踵を返した。