コネクト~幽玄の園~
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(どうしよう……眠れない……)
こんな時ラリホーが使えたら……。
呪文を巧みに扱える魔法使いさんは既に夢の中で、私を眠らせてもらう為に起こすのも忍びない。
このまま朝を待つのも良いけれど、ベッドの中でただ時が過ぎていくのを待つのも辛いものがある。
……仕方ない、眠くなるまでリビングで過ごさせてもらおう。
私はベッドを抜け出して、極力音を立ててしまわないように気を付けながら部屋を後にした。
階段を上がっていくと、明かりが落とされた薄暗い室内を、炎が焚かれたままの暖炉が柔らかな光で照らしていた。
と、暖炉の前に人影が見える。
「……眠れないの?」
そう声を掛けられて、それが誰なのかを瞬時に理解した。
「うん……。エイトも?」
「なんか寝付けなくて」
エイトの横にはあの大きな犬がいる様で、彼の右手はふかふかの毛を撫でていた。
「ルシアも此方においでよ、温かいよ」
「……うん」
エイトに招かれて彼の隣に腰掛ける。
パチパチと心地好い音をたてる薪に耳を済ませていると、気持ちまで温かくなっていくような気がした。
「寒くない?もっと此方に来ても良いんだよ?」
「大丈夫、寒くないから」
「僕は寒いから、温めてくれたら嬉しいけど」
「バフにくっついてた方が温かいと思う」
そう言うと、まるで機転を利かせたようにバフはゆっくりと立ち上がりリビングから出ていってしまう。
あの子……本当に利口というか、察しが良いと言うか……。
「バフ行っちゃった……」
「……じゃあ、部屋に戻ったら?」
意地でも距離を詰めようとしない私に痺れを切らしたエイトは、自分から此方に身体を寄せてきた。
「さっきキスしたのに、くっつくのは駄目なんだ?」
「あれは……エイトが勝手にしてきたんじゃないっ……別に私は……」
「したく……なかった?」
「……。」
私が嫌だって思ってない事を知っていてこんな風に言ってくるなら、とんだ意地悪だと思う。
なんとなく気恥ずかしくて、誤魔化すように立てていた膝に顔を埋める。
「……僕、これでも相当君の事好きだし、色々我慢してるんだけどね……」
「え……?」
神妙な面持ちで溜息を吐くエイトを見て、そんなに悩ませてしまうくらい我儘を言っているだろうか?と不安に見舞われる。
……迷惑は沢山かけてる自覚はあるかもしれない。
「ああ、我慢ってそういう意味じゃないよ」
エイトが苦笑しながら頬を掻く。
オレンジ色の光に照らされた彼の横顔は、少し照れているようにも窺えた。
「本当は沢山、ルシアに触れたいって意味。心も身体も、もっと委ねて欲しいって事。」
「なっ、何言って……!」
「うん、無理なのは知ってるよ。だから我慢してるって言った」
「……知ってるなら、諦めれば良いじゃない……」
「ルシアにあんな風に言われて、本当は凄くショックだったよ。これからどうやって君との未来を築いて行こう?どうしたら君が幸せになれるのかって、そんな事ばかり考えてた。でも……ルシアが見ている未来は違うんだって、君は僕の想像以上に広い世界を見ていて、僕はその端っこにある小石くらいの存在なんだって、思い知らされたというか……」
上手く言葉に出来ないと言った風に、エイトは少し視線を浮かせて考える素振りを見せる。
私もこの想いをどう返していいのか分からなくて、ずっと下を向いていた。
……一層の事、好きだと言ってしまえば楽になれる?
一瞬脳裏を過った馬鹿な考えを振り払うように、私は小さく首を左右に振る。
と、エイトの手が頬に降りて来た。
「ねぇ、ルシア。どうしてさっき拒絶しなかったの?」
「……え?」
彼の真剣な眼差しが私に突き刺さる。
何を言われているのか理解できず、すぐに返事が出てこなかった。
「嫌だって言ってくれたら、そこで終わったかもしれなかったのに。今だって君は僕の隣にいるよね?……その意味が、解る?」
「えっと……」
これってもしかして、あっち行けって言われてる?
意図が伝わっていない事に気が付いたエイトは小さく溜息を吐くと、私の頬に添えていた手を輪郭をなぞるようにして這わせて来る。
「そうやって期待させる癖に別の相手がいるとか、酷い事言うよね」
「……期待、させちゃってる?」
「だって、こんな風に触っても何も抵抗しない。受け入れてくれるんだって思っちゃうよ?」
エイトの言いたい事が漸く解ってきて、私の鼓動が速くなる。
それならば彼の望み通り拒否すればいい。
けれど私はどこか靄のかかった頭でじっとエイトを見返す事しかできない。
まただ……。
身体が、動かない。
頬にあった手が肩へ降りてきて、そのまま肩を押されて身体を倒される。
「ルシア……」
気持ちを押し殺すような擦れた声で名前を呼ばれて、脳の奥が甘い疼きを覚える。
酒気にあてられたみたいに、視界がグラつく。