コネクト~幽玄の園~
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「もしもあの杖を持ったのが私じゃなくてルシアだったら……。きっと私も同じ決断をしたと思う。それはエイトだってきっと同じよ」
炎を見つめたままのゼシカの瞳が微かに細められる。
そうだよね……。
止める、だなんて甘い事を言っていたら此方がやられていたかもしれない。
ハワードさんもレオパルドを『倒してくれ』って言っていたし、覚悟は出来てるって事だよね。
自分達の選んだ正義が、時に命を奪う結果を招く。
その重さをもっと分かっておくべきだった。
「……これから先、もし私が……道を誤りそうになったその時は……私の事、ちゃんと仕留めてね」
「……ルシア?」
「ゼシカだって杖に操られたんだから、私だって何やらかすか分からないでしょう?だから、先にお願いしておこうかなって」
杖の力の凄まじさを目の当たりにして、私は少しだけ弱気になっていたのかもしれない。
ゼシカと杖の相性が良かったのもあると思うけれど、街一つを消し飛ばしてしまう程の膨大な力。
あんなの流石の私でも対処できない。
次にあれを発動されそうになったら、正直今はどうしていいのか分からない。
隣のゼシカに倣って私も炎に手を翳す。
さっきまで悴んでいた指先は大分感覚を取り戻していた。
「……そもそも、ルシアを止める事って出来るのかしら?」
ゼシカが此方に目を向けて、困ったように首を傾げる。
そんな彼女の様子に私は思わず笑みを零した。
「じゃあ……ゼシカにだけ私の弱点を教えておこうかな?」
「弱点……そんなのあるの?」
「勿論あるある!……見ててね」
私は立ちあがり、いつもの様に呪文の詠唱に入る。
「……あれ、なんだか……」
早くも異変に気付いたらしいゼシカの声が聴こえた。
「……ベホマラー!」
術式を組み上げて、魔力を放出させる。
いつもより時間をかけて発動された呪文だけれど、その威力は格段に落ちていた。
「どういうこと?」
訳がわからない、といった風にゼシカが私を見返す。
「実は私の力は殆ど装備品に頼ってるの。詠唱を省略できるのも、魔力を高めてくれるのも全部装備品。あとは武技を入れたりとかして、どうにかやってるんだよ。私個人の力だと、これくらいの事しか出来ないの」
「そうだったの?全然気付かなかったわ……」
「寝る時くらいしか装備品を外す事なかったからね。……だから、もし私が暴走しだしたら、装備品を片っ端から壊してくれれば貧弱になってすぐに倒せるよ」
「そんな事しないし、させないわ!私はこれ以上仲間を傷付けたくない」
「……そうだね。私も、そう思う」
ゼシカの気持ちは痛い程理解できる。
私も二度とあんな光景は見たくないから。
暖炉の前に膝を抱えて座り込んで暫くゼシカと二人で温まっていると、部屋の扉が開かれた。
「おや、お嬢さん方。どうやら大分元気になったみたいだね」
「メディおばあさん!」
小柄なおばあさんが姿を見せると、ゼシカが立ち上がる。
「怪我は……大丈夫そうだね」
おばあさんは私とゼシカを交互に見遣り、優しく笑いかけてくれた。
「助けてくれてありがとうございます」
この人は自分達を助けてくれた人物だと察した私は、慌てて立ち上がって頭を下げる。
おばあさんは首を横に振りながら、吊り下げられていた私とゼシカの洋服に触れた。
「大分乾いたようだね。そろそろ着ても平気だよ」
「ありがとう、おばあさん」
「後は……あのバンダナのお兄ちゃんだけだねぇ」
「バンダナのって……エイトはまだ目を覚まさないんですか?」
なんだか居ても立っても居られなくなって、私は手早く服を着込むと部屋を飛び出した。
隣の部屋のドアノブに手をかけて、一度自分を落ち着かせようと深呼吸をすると、ゆっくりと扉を開ける。
「……エイト」
ベッドに横たわったまま瞳を閉じているエイトの姿が目に入る。
……顔色が悪い。
けれど、その呼吸は穏やかでただ眠っているだけの様にも見える。
少し躊躇いつつも彼の頬に手を添えるとひんやりと冷たい感触が伝わってきた。
「貴方に何かあったら、お姫様が泣いちゃうよ……?」
呼びかけるように言葉を掛ける。
勿論、返事はなかった。
自分の首に下げていた金のロザリオを外し、エイトの手に握らせる。
少しでも彼を死から遠ざけてくれるようにと祈りを込めて。
「んっ……」
「あっ……!」
微かな呻き声と共にエイトの瞼が震えた。
ついさっき突き放すような事を言ってしまっただけに、思わず焦ってしまう。
慌てて部屋から出て行こうとすると、いつの間にか背後に大きな犬が居て。
まるで側に付いていてやれ、とでも言いたげに私の方をじっと見つめていた。
「……ルシア……?」
「エイト……良かった、目が覚めたんだね」
出来るだけ不自然にならないよう気を付けながら笑顔を作り、少しだけベッドから離れて、私はまだぼんやりとしているエイトを見遣る。
と、扉の閉まる音が響いた。
さっきの犬が出て行ったみたいだった。
律義にドアを閉めていくなんて、とてもお利口なのね……。