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★耳かき

「今度は、僕がやってあげようか?」
 耳かきを手にとって、ルチアーノはからかうように言った。
「遠慮しておくよ」
 僕は答えた。ルチアーノの性格を考えると、何が起きるかは想像できる。
「拒否権はないぜ? 断るならさっきのことをセキュリティに話してやる」
「……分かったよ」
 それだけは避けたかった。恐ろしい弱みを握られたものである。自分の軽率さを恨みたかった。
「心配しなくても、力加減くらい分かってるよ」
 ベッドの上に正座して、ルチアーノは僕を誘う。どうせ逃げられないのだ。大人しく彼の腿に頭を乗せる。子供に膝枕されるなんて変な感じだ。
 普段の性格からは想像もできないことだが、意外にもルチアーノは耳かきが上手だった。優しい手付きで先を動かし、耳の中を探っていく。
 他人に耳掃除をされるのは、いつ以来だろう。すごく久しぶりだ。こんなに心地よいものだっただろうか。
 ふわふわと、意識が夢との境界線を彷徨う。瞼が落ち、抵抗できないまま僕は眠りの中に落ちていった。

「おい、起きろよ」
 声を掛けられて目が覚めた。見上げると、ルチアーノが顔を覗き込んでいる。
「耳掃除をされて眠るなんて、どっちが子供か分かんないな」
 からかうようにルチアーノは言う。
「すごく、上手だったから」
 僕が言うと、彼は勝ち誇ったような表情をを見せる。
「心配無かっただろ」
「すごく良かったよ。君さえ良ければ、次もお願いしたいな」
 僕が言うと、ルチアーノは頬を染めた。照れているようだ。その表情を、心から愛おしいと思った。
「いいぜ。君が望むなら、何度でもしてあげるさ」
 照れているようであり、嬉しそうでもある声で、彼は言う。
 それは、これが僕たちの共有する甘い秘密になったことを示しているように思えるのだった。
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