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★栄養ドリンク

「これ、あげるよ」
 そう言って、僕がルチアーノに差し出したのは、ビンに入ったジュースだった。自動販売機の当たりを引いたときに出てきたのだ。
 ルチアーノはビンを開けると、様子を窺うように口に含んだ。気に入ったようで、一気に飲み干す。
「いい趣味してるじゃん」
 ご機嫌な様子で言いながら、空になったビンを押し付ける。ルチアーノはジュースが好物だった。

 いつものように町を歩いていると、ルチアーノの様子がおかしいことに気づいた。落ち着かない様子でそわそわしている。
「お前、何かしただろ」
 人通りの少ない通りに入ると、不機嫌そうに僕を問い詰める。
「何もしてないよ」
 僕には心当たりがなかった。
「さっき、何を飲ませたんだよ」
 怒った声でルチアーノは言う。僕は慌てて鞄に入れていたビンを引っ張り出した。ビンのラベルを覗き込む。
『困惑するほど元気になれる栄養ドリンク…効き過ぎに注意』
 とんでもないことが書いてある。
「わざとだろ。返答次第では潰すからな」
「わざとじゃないですすみません」
 僕は平謝りだ。アンドロイドとはいえ、年端もいかない子供に怪しげな栄養ドリンクを飲ませてしまったのだから。
「ちょっと人気のない場所に行こうぜ」
 ルチアーノが低い声で言う。よく見ると、頬が僅かに上気していた。効力はちゃんと出ているらしい。
「責任、取ってくれるよな……」
 至近距離で詰め寄られる。その姿に、妙な色っぽさを感じてしまう。
「分かったから、少し離れてくれ」
 今のルチアーノは凶器だ。このままだと非常に危ない。

 ルチアーノは僕をシティ郊外に連れ込んだ。ここには何も無ければ人もいない。ことを済ませるには格好の舞台だった。
「衝動が、抑えられないんだ……」
 誘惑するかのような甘い声で彼は言う。頬は上気し、破壊を求める緑の瞳は真っ直ぐに僕に注がれている。
「発散させてくれるかい?」
「もちろん、責任は取るつもりだよ」
 僕は言う。インモラルな響きに、僅かな高揚感を覚えながら。
 ルチアーノは羽をくるりと回すと、デュエルディスクをセットした。僕もデュエルディスクを構える。
「「デュエル!」」
 狂乱の宴が、始まろうとしていた。

「楽しかったよ。たまには本気を出すのも悪くないね」
 デュエルを終えると、ルチアーノは晴れやかな笑顔で言った。
 ダメージを受けた身体が痛む。郊外でなければ、建物に傷をつけていただろう。
 ルチアーノの本気。神の代行者として特別な力を与えられた男の子の本気を、今、この身で受けたのだ。
 それは、きっと特別なことなのだろう。
「僕も、楽しかったよ」
 僕は答える。人ではないものと、本気でぶつかり合った高揚感に身を震わせながら。
「じゃあ、シティに戻ろうか」
 満足した、という顔でルチアーノが言う。手を握られ、身体が浮遊感に包まれる。
 破壊衝動に襲われ、デュエルを迫るルチアーノの姿は、今までに見たどの姿よりもインモラルで魅力的に感じた。上気した頬も、真っ直ぐに僕を見つめる破壊衝動に満ちた瞳も、決して忘れることはないだろう。
 次は同じ手を使うことはできない。この姿を一度きりしか見られないことが、何よりも残念だった。
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