その３（ミライドン）

「やっと、ミライドンに乗れるようになったね」
　僕が言うと、ルチアーノはからかうように笑った。
「喜びすぎだろ。子供みたいだぜ」
「ゲームをやってるときは、誰だって子供になれるんだよ」
　僕は画面の中のルチアーノを操作する。ミライドンに乗って、彼はフィールド上を軽快に駆け抜けている。その姿はまるでDホイーラーだ。
「そういえば、なんで君はバイオレットを選んだんだよ」
　ルチアーノが不思議そうに言う。
「『未来』だからだよ。ルチアーノは未来から来てるから、ぴったりだと思って」
「単純だなぁ」
　彼は呆れたように呟いた。彼の言う通りだ。僕の考えは単純でしかない。
「それに、ミライドンの色は、ルチアーノのDボードに似てるから。こうすると、ルチアーノがDホイールに乗ってるみたいに見えるでしょ」
　そう。ミライドンはよく似ているのだ。ルチアーノ専用のDボードである、A・ファヴニールに。
「確かに、似てるけど……、もしかして、ミライドンにDボードの名前をつけるつもりじゃないよな？」
　ルチアーノは眉を顰めた。嫌がっているようだ。
「つけようと思ってたけど、ダメなの？」
「嫌だよ。ファヴニールは僕のDボードだけで十分だろ」
　ルチアーノは不機嫌そうに言う。彼らのDボードは神から与えられた道具であり、彼らの身体の一部でもある。きっと、彼らにしか分からない何かがあるのだろう。
「そっか、じゃあ、別の名前にしようかな。せっかくのルチアーノの相棒だけど……」
　僕がしょんぼりとして見せると、ルチアーノは怒ったように言う。
「分かったよ。 許可すればいいんだろ！」
　ルチアーノは僕の押しに弱い。怒ったような言い方をしているけど、本当は悲しませてないか不安になっていることも、様子を見れば分かる。少し意地悪をしすぎてしまっただろうか。心の内で反省する。
　半ば強引にだけど、名前をつける許可をもらった。ミライドンを仲間にする日が楽しみだった。