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花束

 その日、僕は遊星とタッグを組んでいた。ゴーストに関する調査を頼まれたのだ。
 イリアステルの子供と遊びながら、ゴーストの捜査をするなんて、矛盾している。でも、遊星とは長い付き合いだし、町の平和を守りたい気持ちは尊敬しているから、断れなかったのだ。
 二人で目的地を目指していると、どこからか足音が聞こえてきた。
「やあ、○○○」
 名前を呼ばれる。振り返ると、ルチアーノの姿があった。
「これは僕からのプレゼント。受け取ってくれよな」
 そう言って彼が差し出したのは、花束だった。真っ赤な薔薇が白い紙に包まれている。かなり本格的なものだった。
「ありがとう」
 とりあえず受け取ると、ルチアーノはすたすたとどこかに去っていった。
「慕われているんだな」
 遊星は微笑んで言うが、僕にはこれがただのプレゼントではないことが分かっていた。これは、ルチアーノからの嫌がらせだ。朝っぱらから花束なんか渡されても困ることを、彼は理解している。分かっていて押し付けに来たのだ。
 もしかしたら、別の意味もあるのかもしれない。例えば、遊星に対する宣戦布告、とか。
──シグナーごときが調子に乗るなよ。その男は僕のものだからな。
 ルチアーノの幻聴が聞こえてくる。さすがに、そこまでの独占欲を持たれているなんて考えるのは、思い上がりだろうか。
 とりあえず、花束を何とかしなくてはいけない。
「これ、家に置いてきてもいいかな」
 僕が言うと、遊星は快く了承した。
「ああ。ここで待ってるから、戻ったら教えてくれ」
「ごめん。すぐ戻るから」
 遊星に断りを入れると、真っ赤な花束を抱えて、家へと急いだのだった。

「僕からのプレゼント、気に入ってくれたかい?」
 翌日、僕を見つけたルチアーノは、駆け寄ってきてそう言った。
「もちろん。ちゃんと飾ってあるよ」
 僕は答える。ルチアーノからの贈りものなんて珍しい。大切にしないわけがなかった。
「これで、あいつも分かっただろうね。君が僕のものだって」
 いたずらっぽく彼は笑う。その言葉が本心なのかは分からなかったけど、僕には嬉しかった。
「花束をプレゼントしてくれるなんて、恋人みたいだね」
 僕が言うと、彼は呆れたように言う。
「そんなロマンチックなものじゃねーよ。要らないから渡しただけだぜ」
「それでも、嬉しかったんだよ」
 僕は言う。それからしばらく、僕の部屋には薔薇の花束が飾られていたのだった。
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