買い物
その日、私の前に現れた男の子は、いつもと違う姿をしていた。左で三つ編みに編んだレッドブラウンの髪に、ナチュラルメイクを施した顔。顔の半分を覆う不思議な仮面は外されていて、両方の瞳が見えている。身に纏っているのは、デュエルアカデミアの制服だった。
「久しぶりだね。初音」
声を聞いて、一瞬で誰なのかを理解する。格好はいつもと違うが、それは紛れもなく彼の姿だった。
「ルチアーノくん……? その格好は……?」
私が言うと、彼はにやりと笑った。
「これかい? 似合うだろ?」
確かに、その服装は彼によく似合っている。まるで、お金持ちの男の子みたいだ。
「とても似合ってる。」
私が答えると、彼は満足そうな顔をした。上機嫌な様子で言う。
「今日は、君に付き合ってほしいことがあるんだ」
彼に導かれて向かった先は、大型のショッピングモールだった。店内に入ると、エスカレーターを登って子供服ブランドが並ぶ階へと上がっていく。
壁に展示されたフロアマップを見ると、彼は私の方を振り返った。
「君に、子供の着る服を選んでほしい」
「子供服?」
予想外の言葉に疑問符を浮かべると、彼は笑いながら言った。
「しばらく、学校に通うことになってね。その間に着る服を調達したいんだ」
「どうして、私なの?」
私が尋ねると、彼はにやりと笑った。
「一般市民に擬態するなら、一般市民の意見を聞くべきだろ?」
私は学生でもなければ、子供と関わりのある立場でもない。ファッションセンスに自信はないが、頼ってもらえるのなら、期待に答えたかった。
子供服売り場を歩いて、男の子向けのブランドを見る。並んでいるのは、Tシャツやショートパンツ、パーカーなどのカジュアルな服ばかりだ。
私は、その中から二着ほどを選ぶと、彼に手渡した。比較的に柄の少ない、シンプルな服だった。
「これを着てみてくれる?」
彼は更衣室へと入っていく。しばらくすると、カーテンが開いた。
「うーん…………」
私は首を捻る。かわいいのだけど、彼の雰囲気には似合わないのだ。メイクを施した姿に合わせるには、その服はラフすぎてしまう。
私の気持ちを察したのか、彼が鏡を見る。
「なんか、変じゃないか」
私は何も言えなかった。彼の言う通りだったのだ。
「今度は、違うお店を見に行こうよ」
お店を変えても、結果は同じだった。どこに置いてある服も、同じようにカジュアルなものばかりなのだ。普段の格好ならともかく、メイクをして大人びた容姿になっている今の彼には、子供服は合わなかった。
「全滅だな」
笑いながら彼が言う。
このままではただのショッピングデートになってしまう。私はそれでもいいのだけど、彼にとっては無駄足だろう。何か、いい案があればと考える。
「そうだ!」
いいアイデアを思い付いた。相手が高貴な容姿を持っているなら、それに合わせてしまえばいい。そうすれば、違和感はなくなるはずだ。
「行きたい場所があるんだけど、来てくれる?」
私が言うと、彼はついてきてくれた。ショッピングモールを出て、繁華街へと移動する。
デパートが並ぶ通りの片隅へ向かうと、小さなビルに入った。エスカレーターを上り、フリルとレースで彩られたワンピースの並ぶ店舗を通り抜け、目的のお店へと向かう。
店内に入ると、ハンガーで吊り下げてある服を手に取った。
「これを着てみて」
私が手渡したのは、真っ白なブラウスと膝下丈のパンツだった。追加で渡した黒いベストには、金のボタンがついている。所謂、ゴシックファッションというものだ。
「これ、女の着る服だろ? いいのかよ」
不満そうに彼は言うが、私はハンガーを押し付ける。絶対に似合う自信があった。
「とにかく、着てみてほしいの」
私が押し通すと、彼はしぶしぶ更衣室へと向かった。衣擦れの音が聞こえて、カーテンが開く。
思わず息を呑んだ。ゴシックファッションに身を包んだ彼の姿は、これまでに見てきた誰よりも美しかった。サイズが合うか心配だったけど、手足の長い彼は綺麗に着こなしてくれた。
「すごく似合ってる」
私は言った。心の底からの言葉だった。
彼は鏡を見ると、納得したように言った。
「悪くないかもね」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
服を着替えると、彼はレジへと向かって行った。トータルで三万はする服を、悩むことなく買っている。お金に頓着がないようだった。
この服を着ていたら、一般市民には見えないだろうな。そう思ったけど、何も言わないことにする。
私の隣に戻ると、彼はからかうように笑って言った。
「あんた、結構いい趣味してるんだな」
その笑顔に、心臓がどぎどきしてしまう。短い間でも、この美しい人と一緒にいられるなんて、私は幸せ者だと思った。
外へ出ると、外はすっかり暗くなっていた。もう、家に帰る時間だ。
「今度来るときは、この服を着てきてやるよ」
彼が楽しそうに笑う。
「楽しみにしてるね」
今度会った時、私は平静を保てるだろうか。私の趣味で選んだ服を着た彼は、私にとって何よりも美しいだろう。
「じゃあ、バイバイ」
手を振って、彼は夜の町へと消えていく。その後ろ姿が、とても綺麗だった。
彼にとって、私はどのような存在なのだろう。そもそも、彼は何者なのだろう。疑問はたくさんあるけど、今は、次の約束があることだけが嬉しかった。
「久しぶりだね。初音」
声を聞いて、一瞬で誰なのかを理解する。格好はいつもと違うが、それは紛れもなく彼の姿だった。
「ルチアーノくん……? その格好は……?」
私が言うと、彼はにやりと笑った。
「これかい? 似合うだろ?」
確かに、その服装は彼によく似合っている。まるで、お金持ちの男の子みたいだ。
「とても似合ってる。」
私が答えると、彼は満足そうな顔をした。上機嫌な様子で言う。
「今日は、君に付き合ってほしいことがあるんだ」
彼に導かれて向かった先は、大型のショッピングモールだった。店内に入ると、エスカレーターを登って子供服ブランドが並ぶ階へと上がっていく。
壁に展示されたフロアマップを見ると、彼は私の方を振り返った。
「君に、子供の着る服を選んでほしい」
「子供服?」
予想外の言葉に疑問符を浮かべると、彼は笑いながら言った。
「しばらく、学校に通うことになってね。その間に着る服を調達したいんだ」
「どうして、私なの?」
私が尋ねると、彼はにやりと笑った。
「一般市民に擬態するなら、一般市民の意見を聞くべきだろ?」
私は学生でもなければ、子供と関わりのある立場でもない。ファッションセンスに自信はないが、頼ってもらえるのなら、期待に答えたかった。
子供服売り場を歩いて、男の子向けのブランドを見る。並んでいるのは、Tシャツやショートパンツ、パーカーなどのカジュアルな服ばかりだ。
私は、その中から二着ほどを選ぶと、彼に手渡した。比較的に柄の少ない、シンプルな服だった。
「これを着てみてくれる?」
彼は更衣室へと入っていく。しばらくすると、カーテンが開いた。
「うーん…………」
私は首を捻る。かわいいのだけど、彼の雰囲気には似合わないのだ。メイクを施した姿に合わせるには、その服はラフすぎてしまう。
私の気持ちを察したのか、彼が鏡を見る。
「なんか、変じゃないか」
私は何も言えなかった。彼の言う通りだったのだ。
「今度は、違うお店を見に行こうよ」
お店を変えても、結果は同じだった。どこに置いてある服も、同じようにカジュアルなものばかりなのだ。普段の格好ならともかく、メイクをして大人びた容姿になっている今の彼には、子供服は合わなかった。
「全滅だな」
笑いながら彼が言う。
このままではただのショッピングデートになってしまう。私はそれでもいいのだけど、彼にとっては無駄足だろう。何か、いい案があればと考える。
「そうだ!」
いいアイデアを思い付いた。相手が高貴な容姿を持っているなら、それに合わせてしまえばいい。そうすれば、違和感はなくなるはずだ。
「行きたい場所があるんだけど、来てくれる?」
私が言うと、彼はついてきてくれた。ショッピングモールを出て、繁華街へと移動する。
デパートが並ぶ通りの片隅へ向かうと、小さなビルに入った。エスカレーターを上り、フリルとレースで彩られたワンピースの並ぶ店舗を通り抜け、目的のお店へと向かう。
店内に入ると、ハンガーで吊り下げてある服を手に取った。
「これを着てみて」
私が手渡したのは、真っ白なブラウスと膝下丈のパンツだった。追加で渡した黒いベストには、金のボタンがついている。所謂、ゴシックファッションというものだ。
「これ、女の着る服だろ? いいのかよ」
不満そうに彼は言うが、私はハンガーを押し付ける。絶対に似合う自信があった。
「とにかく、着てみてほしいの」
私が押し通すと、彼はしぶしぶ更衣室へと向かった。衣擦れの音が聞こえて、カーテンが開く。
思わず息を呑んだ。ゴシックファッションに身を包んだ彼の姿は、これまでに見てきた誰よりも美しかった。サイズが合うか心配だったけど、手足の長い彼は綺麗に着こなしてくれた。
「すごく似合ってる」
私は言った。心の底からの言葉だった。
彼は鏡を見ると、納得したように言った。
「悪くないかもね」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
服を着替えると、彼はレジへと向かって行った。トータルで三万はする服を、悩むことなく買っている。お金に頓着がないようだった。
この服を着ていたら、一般市民には見えないだろうな。そう思ったけど、何も言わないことにする。
私の隣に戻ると、彼はからかうように笑って言った。
「あんた、結構いい趣味してるんだな」
その笑顔に、心臓がどぎどきしてしまう。短い間でも、この美しい人と一緒にいられるなんて、私は幸せ者だと思った。
外へ出ると、外はすっかり暗くなっていた。もう、家に帰る時間だ。
「今度来るときは、この服を着てきてやるよ」
彼が楽しそうに笑う。
「楽しみにしてるね」
今度会った時、私は平静を保てるだろうか。私の趣味で選んだ服を着た彼は、私にとって何よりも美しいだろう。
「じゃあ、バイバイ」
手を振って、彼は夜の町へと消えていく。その後ろ姿が、とても綺麗だった。
彼にとって、私はどのような存在なのだろう。そもそも、彼は何者なのだろう。疑問はたくさんあるけど、今は、次の約束があることだけが嬉しかった。