旅立ち
リルルは生まれる前からの記憶があった。
母体の中で耳も聞こえ、目も見え、夢見もあった。
『忌子』と言われたその力は膨大だった。
聖騎士と呼ばれる高い魔力を持った者たちが、数人で母体に封印をしなければ、母体が耐えられない程。
母体の力は聖騎士が束になっても敵わないであったが、それでは足りない力をリルルは持って生まれた。
聖国ルナでは、初めに女が生まれ、次に男が生まれるのが通例。
それが逆となった事が、『忌子』と呼ばれる所以。
少女には兄がいて、聖国の王族標準魔力で、『問題がない』とされたが、リルルは違った。
誰にも抑えられない力は、何も出来ない赤子の内に葬るのが良いとされていた。
生まれたばかりのリルルは、母親が作った魔力封じの特別なおくるみに包まれ、聖騎士達が作った魔力封じの手枷と足枷。
目も耳も布で塞がれていた為、暗闇の中に居た。
ルナリエ、聖国ルナ、聖皇女
『リルルゥ・ルナ・セレスティウス・ステラ』の誕生だった。
聖王がアルトゥアを選んだのは、封印魔法が誰よりも優れていて、聖王とは幼い頃からの友人だった為。
アルトゥアが封印魔法に長けている事は、聖王しか知らない事だった。
今は、グイネアとマルサルも周知の沙汰。
アルトゥアは、母親と聖騎士数人で作った魔力封じをたった1人でやって退けた。
しかしそれでは、リルルにとって不自由なだけだった。
そこで、聖王の信用のおける友人を1人ずつ隠れ家に呼び、リルルに封印をかけて貰う事に。
これも聖王と予め決めていた事だった。
封印を行なった者が生を全うすると、封印が解ける。
万が一溶けてしまうと、力を感知され、聖騎士に連れ戻されてしまう為、リルル自身でも成長と共に、自ずから力を抑える術を学ぶしかなかった。
まだ、リルルが赤ん坊の頃、封印を少しずつ、1人ずつに分け始めた頃、マルサルの兄が赤子を連れて訪ねてきた。
「いやぁ、森の奥の湖で赤子を拾ってね。この子は不備な子で、魔力が全くない」
と云って、『ハクラン』を見せた。
名前は、捨てられていた彼の手の中にあった御守りから付けたのだと云った。
その時、マルサルの兄トルシカにも、リルルは封印をして貰った。
リルルの成長と共に封印も順調に増えた。
力は増す一方で、ひとりで歩く頃になっても結局、手枷も足枷も外せなかった。
手枷と足枷の重みを忘れさせてくれるのは、アルトゥアが買ってくれる書籍を読んでいる時だけ。
リルルは、帝国史、聖国史、魔法、薬学、数式、言語、など、アルトゥアが買ってくる書籍に興味を示し、読み漁っては吸収した。
魔法以外の知識はすぐに実践出来たので、それもまた重みを忘れる時間となっていった。
そんなある日、街に出かけていたアルトゥアがとても綺麗な装飾の腕輪を買ってきて、リルの手枷代わりに装着した。
それには魔法石が散りばめられた、まるで夜空のような腕輪だった。
「この魔法石は、封印魔法がかけられていて、魔法をかけた者が居なくても、解術できるし、とても軽いだろ?」
優しいアルトゥアはにっこりと笑って手枷を変えてくれた。
「具合が良ければ、足も同じような方法にしような」
そう云って、肌にも問題ない事を数日間確認した後、足枷も遂に外れた。
リルの体は軽くなり、歩けるようになって数年。
初めて草原を駆け回った。
とても爽快だった。
走れるようになった2日後、ある異変に気づいた。
それは自分の魔力が、あろう事か、漏れ出ている。
まだ学んでいる途中だった、魔力コントロールはそこまで上手く出来ないリルル。
魔力を少しずつ解放し、それをどこまで自分の力で抑えられるか、日々努力をしているが、解術していない筈の魔力が漏れ出ている。
このままでは抑えきれず、一般の者と同じ魔力量を超えてしまう。
「ネア。何か変なの」
庭先のベンチで本を読んでいたリルルは、ふらふらと、夕食の準備をしていたグイネアの所まで辿り着いた。
リルルの声に振り返ったグイネアは、持っていた調理器具を全て床に捨て、慌てて封印魔法をかけた。
こうした不足の事態が起きた時にグイネアだけが封印魔法をかけてこなかったのだ。
それが、マルサルの兄、トルシカの『生が尽きた証』だった。
目の前に広がる草原の丘の上に、一軒の家。
作業小屋のような円錐形の石造り。家の屋根には、三角錐の茅葺の屋根。
正面には、玄関横とキッチンに陽が差し込む窓が2つある。
中は暖炉とソファと食卓。
空間魔法が使われた扉が二つある。奥の扉の先には薬房、お風呂。
暖炉脇の扉の先には、階段があり2階に続いている。
そんな家の裏には『迷いの森』と呼ばれる森が広がり、その先には鋭い岩で構成された険しい山。
強者冒険者がたまにやってくるが、魔法が一種類しか使えないこの森は、一度入ると素直に帰してはくれない。
そんな『迷いの森』も、少しずつ解明すれば、リルルを守る役割を果たしてくれると、聖王に提案したのはアルトゥアだった。
解明も何も、トルシカが住んでおり、彼は既にこの森の地図作っていた。それに、一種類しか使えない魔法さえ使えば、森からは簡単に出られる。
『移動魔法』
この魔法さえ使うことができれば問題はないが、この魔法を使える者はかなり少ない。
アルトゥアは使えるが、グイネアとマーサは使えなかった。
トルシカも使えたが、魔法が使えないハクランの為に、地図を作ったのだ。
封印により魔力が足りず、リルルはまだ移動魔法が使えなかったので、同じ地図を持たされていた。
地図には色んな動く絵が描かれていて、日や時間で絵は自由に動き回っている。
これが迷いの森の秘密の理由なのだとか。
トルシカがいなくなってから、毎日、ハクランと翡翠が地図を頼りにやってきた。
それでも3日もすれば、翡翠は移動魔法を覚えたので地図は無くても通えるようになった。
朝から晩まで、6人で食事。
午前中は生活に必要な作業をし、午後から遊んだり、勉強や魔法、ハクランと翡翠は剣術の稽古もした。
時々、ハクランと翡翠はアルトゥアに連れられて街まで行って外泊をする事もあった。
夕食を食べ終わると2人は森へ帰って行く。
ゆっくりとした日々が続いていた。
この地域では、寒い『氷の季節』が長く、暑い『陽光の季節』が短い。
14回目の陽光の季節を終える時、幸せな日々は突然終わりを迎えた。
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母体の中で耳も聞こえ、目も見え、夢見もあった。
『忌子』と言われたその力は膨大だった。
聖騎士と呼ばれる高い魔力を持った者たちが、数人で母体に封印をしなければ、母体が耐えられない程。
母体の力は聖騎士が束になっても敵わないであったが、それでは足りない力をリルルは持って生まれた。
聖国ルナでは、初めに女が生まれ、次に男が生まれるのが通例。
それが逆となった事が、『忌子』と呼ばれる所以。
少女には兄がいて、聖国の王族標準魔力で、『問題がない』とされたが、リルルは違った。
誰にも抑えられない力は、何も出来ない赤子の内に葬るのが良いとされていた。
生まれたばかりのリルルは、母親が作った魔力封じの特別なおくるみに包まれ、聖騎士達が作った魔力封じの手枷と足枷。
目も耳も布で塞がれていた為、暗闇の中に居た。
ルナリエ、聖国ルナ、聖皇女
『リルルゥ・ルナ・セレスティウス・ステラ』の誕生だった。
聖王がアルトゥアを選んだのは、封印魔法が誰よりも優れていて、聖王とは幼い頃からの友人だった為。
アルトゥアが封印魔法に長けている事は、聖王しか知らない事だった。
今は、グイネアとマルサルも周知の沙汰。
アルトゥアは、母親と聖騎士数人で作った魔力封じをたった1人でやって退けた。
しかしそれでは、リルルにとって不自由なだけだった。
そこで、聖王の信用のおける友人を1人ずつ隠れ家に呼び、リルルに封印をかけて貰う事に。
これも聖王と予め決めていた事だった。
封印を行なった者が生を全うすると、封印が解ける。
万が一溶けてしまうと、力を感知され、聖騎士に連れ戻されてしまう為、リルル自身でも成長と共に、自ずから力を抑える術を学ぶしかなかった。
まだ、リルルが赤ん坊の頃、封印を少しずつ、1人ずつに分け始めた頃、マルサルの兄が赤子を連れて訪ねてきた。
「いやぁ、森の奥の湖で赤子を拾ってね。この子は不備な子で、魔力が全くない」
と云って、『ハクラン』を見せた。
名前は、捨てられていた彼の手の中にあった御守りから付けたのだと云った。
その時、マルサルの兄トルシカにも、リルルは封印をして貰った。
リルルの成長と共に封印も順調に増えた。
力は増す一方で、ひとりで歩く頃になっても結局、手枷も足枷も外せなかった。
手枷と足枷の重みを忘れさせてくれるのは、アルトゥアが買ってくれる書籍を読んでいる時だけ。
リルルは、帝国史、聖国史、魔法、薬学、数式、言語、など、アルトゥアが買ってくる書籍に興味を示し、読み漁っては吸収した。
魔法以外の知識はすぐに実践出来たので、それもまた重みを忘れる時間となっていった。
そんなある日、街に出かけていたアルトゥアがとても綺麗な装飾の腕輪を買ってきて、リルの手枷代わりに装着した。
それには魔法石が散りばめられた、まるで夜空のような腕輪だった。
「この魔法石は、封印魔法がかけられていて、魔法をかけた者が居なくても、解術できるし、とても軽いだろ?」
優しいアルトゥアはにっこりと笑って手枷を変えてくれた。
「具合が良ければ、足も同じような方法にしような」
そう云って、肌にも問題ない事を数日間確認した後、足枷も遂に外れた。
リルの体は軽くなり、歩けるようになって数年。
初めて草原を駆け回った。
とても爽快だった。
走れるようになった2日後、ある異変に気づいた。
それは自分の魔力が、あろう事か、漏れ出ている。
まだ学んでいる途中だった、魔力コントロールはそこまで上手く出来ないリルル。
魔力を少しずつ解放し、それをどこまで自分の力で抑えられるか、日々努力をしているが、解術していない筈の魔力が漏れ出ている。
このままでは抑えきれず、一般の者と同じ魔力量を超えてしまう。
「ネア。何か変なの」
庭先のベンチで本を読んでいたリルルは、ふらふらと、夕食の準備をしていたグイネアの所まで辿り着いた。
リルルの声に振り返ったグイネアは、持っていた調理器具を全て床に捨て、慌てて封印魔法をかけた。
こうした不足の事態が起きた時にグイネアだけが封印魔法をかけてこなかったのだ。
それが、マルサルの兄、トルシカの『生が尽きた証』だった。
目の前に広がる草原の丘の上に、一軒の家。
作業小屋のような円錐形の石造り。家の屋根には、三角錐の茅葺の屋根。
正面には、玄関横とキッチンに陽が差し込む窓が2つある。
中は暖炉とソファと食卓。
空間魔法が使われた扉が二つある。奥の扉の先には薬房、お風呂。
暖炉脇の扉の先には、階段があり2階に続いている。
そんな家の裏には『迷いの森』と呼ばれる森が広がり、その先には鋭い岩で構成された険しい山。
強者冒険者がたまにやってくるが、魔法が一種類しか使えないこの森は、一度入ると素直に帰してはくれない。
そんな『迷いの森』も、少しずつ解明すれば、リルルを守る役割を果たしてくれると、聖王に提案したのはアルトゥアだった。
解明も何も、トルシカが住んでおり、彼は既にこの森の地図作っていた。それに、一種類しか使えない魔法さえ使えば、森からは簡単に出られる。
『移動魔法』
この魔法さえ使うことができれば問題はないが、この魔法を使える者はかなり少ない。
アルトゥアは使えるが、グイネアとマーサは使えなかった。
トルシカも使えたが、魔法が使えないハクランの為に、地図を作ったのだ。
封印により魔力が足りず、リルルはまだ移動魔法が使えなかったので、同じ地図を持たされていた。
地図には色んな動く絵が描かれていて、日や時間で絵は自由に動き回っている。
これが迷いの森の秘密の理由なのだとか。
トルシカがいなくなってから、毎日、ハクランと翡翠が地図を頼りにやってきた。
それでも3日もすれば、翡翠は移動魔法を覚えたので地図は無くても通えるようになった。
朝から晩まで、6人で食事。
午前中は生活に必要な作業をし、午後から遊んだり、勉強や魔法、ハクランと翡翠は剣術の稽古もした。
時々、ハクランと翡翠はアルトゥアに連れられて街まで行って外泊をする事もあった。
夕食を食べ終わると2人は森へ帰って行く。
ゆっくりとした日々が続いていた。
この地域では、寒い『氷の季節』が長く、暑い『陽光の季節』が短い。
14回目の陽光の季節を終える時、幸せな日々は突然終わりを迎えた。
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