旅立ち
少年には親がいなかった。
赤子の時、世話をしてくれた老人がいたが、自分の身長が100cmくらいになったある日、彼は息をしなくなった。
老人とは森の中に住んでいて、森から一度も出たことはなかった。
彼が残した書籍の通り、少年は彼を1人で森に埋葬した。
埋葬場所は彼から教わっていた。
彼の墓前には同じような墓石が数える程ある。
その日、墓前でぼんやりしていた時、身なりの良い青年に出会った。
名は『翡翠(ひすい)』と云った。
翡翠はの髪は、薄く緑がかっていて風が吹くとさらりと流れ、瞳は翠。背丈は少年の1/3分ほど高い。
肌は健康的な褐色が眼の輝きを際立たせていて、それはまるで、鉱山で見つけた『翡翠』そのものだった。
滑らかで、着心地の良さそうな服には沢山の装飾品が飾られ、そこから伸びる長い手足が実際より背が高く見えた。
一方の少年は、暗闇では光る銀色で、癖のある髪は腰まで伸び、昨日まで髪を結ってくれた人がいないため、ボサボサだった。
前髪の隙間からは煌めく星散りばめた夜空の目。
眼光は鋭く翡翠を睨んだ。
先ほど埋葬した時の土に塗れ、全身汚れている。
そんな少年に翡翠は跪き涙を流して云った。
「やっと。やっとお会いできましたハク様」
それが翡翠と出会った初秋だった。
初めこそは警戒していたものの、翡翠は何も云わず、献身的に世話をしてくれるのですぐに打ち解けた。
ハクラムもまた、何も聞かなかった。
翡翠は何でもできた。
料理は勿論、掃除に洗濯。
煌びやかな服もすぐに脱ぎ捨て、少年と同じ、動きやすく汚れても気にならない生地で服まで仕立てた。
そんな二人だけの生活が軌道に乗り始めた頃、今度は『アルトゥア』と出会った。
アルトゥアは、成人男性だった。
赤褐色の髪に、眼の色が内側から金、緑、茶と階調していて、とても吸い込まれそうだった。
鍛えられていそうな体はガッチリとしているし、
顔立ちもはっきりしていて凛としている。
眉の凛々しさが、落ち着いた雰囲気に拍車を掛けていた。
翡翠が昼食の準備をしている間、一人で剣術の練習をしていた時だったので、そのまま木刀を向けたが、勝ち目がないことは瞬時に理解した。
その証拠に、アルトゥアは驚きもせず、持参した籠の中に入っている、赤い飲み物とチーズ、大きなパンを見せ、にこりと笑った。
「私の名はアルトゥア。トルシカに会いに来たのだけど君は?トルシカのお弟子さんかな?なかなか剣筋がいいね」
『トルシカ』とは老人の名だ。
少年はいつも「じーさん」と呼んでいたが、確かそんな名だったことを思い出した。
と同時に、真剣を手に斬りかかった翡翠を止めた。
アルトゥアは、トルシカが死んだ事を知って、今度家族みんなで墓参りに来ると云ってその日は、持ってきた籠を置いて帰って行った。
数日後。
アルトゥアとその家族とやらが、森へやってきた。
トルシカが集めていた書籍の挿絵にあった、近くの街の正装。
真っ黒な、フード付きロングローブに銀の帯。
ローブの裾と帯には、白いユラの花が刺繍されている。
ユラの花は『再生の花』と呼ばれ、亡くなった者への手向け花とされている。
よく見ると、アルトゥアの背中で何かが動いてた。
アルトゥアの隣にはとても美しい女性。
その後ろにも老女が1人。
美しい女性は『グイネア』でアルトゥアの妻だと名乗った。
飾り気が無いが、華やかでとても美しい人だった。
フードとヴェールで正しい瞳の色はわからなかったが、お辞儀をした時ヴェールの隙間から僅かに見えたのは、亜麻色の髪に似合いそう緑に思えた。
「彼が手紙にあったお弟子さんだよ、マーサ」
アルトゥアが老女に声をかけると、老女が前へ出た。
『マーサ』と呼ばれた老女は『マルサル』と名乗り、トルシカの妹だと云って、兄を葬ってくれた事に感謝していると、少年に頭を下げた。
腕の中にはユラの花が溢れていた。
どことなく『じーさん』に似ていると感じた。
少年は翡翠を連れて、家族を墓石へ案内した。
グイネアはマルサルを支えながら花を手向けた。その光景を眺めていた時、アルトゥアの背中が激しく動いたかと思うと、ローブの中から真っ直ぐ、空に向かって腕が伸びてきて思わず身構えた。
それが、彼女との出会いだった。
頭頂から毛先に向けて、とても薄い桃色から濃い桃色に変化する髪色は彼女の愛らしさを象徴し、まだ幼く丸い輪郭、白い頬を髪より濃い色に染め、小さな鼻の上には大きな目。
深い海をそのまま嵌めたような薄い水色の目から、溢れた水がぽたりと白い肌に垂れた。
欠伸をしたらしい。
「アルゥ」
「リル、起きたのか?さぁ、トルシカに挨拶をしよう」
アルトゥアの背中を滑り降りてきた少女は、少年と翡翠に礼儀正しくお辞儀をして『リルルです』と、微笑んだかと思うとそのまま走って行ってグイネアのスカートの裾にしがみついた。
グイネアはしゃがみ込んで、リルルを抱きしめた。
少年の周りに女性がいなかったため、その光景をしばらく眺めていたら、アルトゥアが突然、振り返って前かがみになった。
「ヒスイ君と一緒に、私の家にいつでも遊びに来るといい。家が狭いから一緒に住むことはできないが、移動魔法が使えるようになったら通うことも容易い」
アルトゥアは顎に手を当てて唸って何かを考えたあと、にっこりと笑った。
「そうだな、トルシカの代わりに、魔法も剣術もなんでも、私で良ければ教えよう」
そうして、少年は少女と毎日一緒にいることとなった。
赤子の時、世話をしてくれた老人がいたが、自分の身長が100cmくらいになったある日、彼は息をしなくなった。
老人とは森の中に住んでいて、森から一度も出たことはなかった。
彼が残した書籍の通り、少年は彼を1人で森に埋葬した。
埋葬場所は彼から教わっていた。
彼の墓前には同じような墓石が数える程ある。
その日、墓前でぼんやりしていた時、身なりの良い青年に出会った。
名は『翡翠(ひすい)』と云った。
翡翠はの髪は、薄く緑がかっていて風が吹くとさらりと流れ、瞳は翠。背丈は少年の1/3分ほど高い。
肌は健康的な褐色が眼の輝きを際立たせていて、それはまるで、鉱山で見つけた『翡翠』そのものだった。
滑らかで、着心地の良さそうな服には沢山の装飾品が飾られ、そこから伸びる長い手足が実際より背が高く見えた。
一方の少年は、暗闇では光る銀色で、癖のある髪は腰まで伸び、昨日まで髪を結ってくれた人がいないため、ボサボサだった。
前髪の隙間からは煌めく星散りばめた夜空の目。
眼光は鋭く翡翠を睨んだ。
先ほど埋葬した時の土に塗れ、全身汚れている。
そんな少年に翡翠は跪き涙を流して云った。
「やっと。やっとお会いできましたハク様」
それが翡翠と出会った初秋だった。
初めこそは警戒していたものの、翡翠は何も云わず、献身的に世話をしてくれるのですぐに打ち解けた。
ハクラムもまた、何も聞かなかった。
翡翠は何でもできた。
料理は勿論、掃除に洗濯。
煌びやかな服もすぐに脱ぎ捨て、少年と同じ、動きやすく汚れても気にならない生地で服まで仕立てた。
そんな二人だけの生活が軌道に乗り始めた頃、今度は『アルトゥア』と出会った。
アルトゥアは、成人男性だった。
赤褐色の髪に、眼の色が内側から金、緑、茶と階調していて、とても吸い込まれそうだった。
鍛えられていそうな体はガッチリとしているし、
顔立ちもはっきりしていて凛としている。
眉の凛々しさが、落ち着いた雰囲気に拍車を掛けていた。
翡翠が昼食の準備をしている間、一人で剣術の練習をしていた時だったので、そのまま木刀を向けたが、勝ち目がないことは瞬時に理解した。
その証拠に、アルトゥアは驚きもせず、持参した籠の中に入っている、赤い飲み物とチーズ、大きなパンを見せ、にこりと笑った。
「私の名はアルトゥア。トルシカに会いに来たのだけど君は?トルシカのお弟子さんかな?なかなか剣筋がいいね」
『トルシカ』とは老人の名だ。
少年はいつも「じーさん」と呼んでいたが、確かそんな名だったことを思い出した。
と同時に、真剣を手に斬りかかった翡翠を止めた。
アルトゥアは、トルシカが死んだ事を知って、今度家族みんなで墓参りに来ると云ってその日は、持ってきた籠を置いて帰って行った。
数日後。
アルトゥアとその家族とやらが、森へやってきた。
トルシカが集めていた書籍の挿絵にあった、近くの街の正装。
真っ黒な、フード付きロングローブに銀の帯。
ローブの裾と帯には、白いユラの花が刺繍されている。
ユラの花は『再生の花』と呼ばれ、亡くなった者への手向け花とされている。
よく見ると、アルトゥアの背中で何かが動いてた。
アルトゥアの隣にはとても美しい女性。
その後ろにも老女が1人。
美しい女性は『グイネア』でアルトゥアの妻だと名乗った。
飾り気が無いが、華やかでとても美しい人だった。
フードとヴェールで正しい瞳の色はわからなかったが、お辞儀をした時ヴェールの隙間から僅かに見えたのは、亜麻色の髪に似合いそう緑に思えた。
「彼が手紙にあったお弟子さんだよ、マーサ」
アルトゥアが老女に声をかけると、老女が前へ出た。
『マーサ』と呼ばれた老女は『マルサル』と名乗り、トルシカの妹だと云って、兄を葬ってくれた事に感謝していると、少年に頭を下げた。
腕の中にはユラの花が溢れていた。
どことなく『じーさん』に似ていると感じた。
少年は翡翠を連れて、家族を墓石へ案内した。
グイネアはマルサルを支えながら花を手向けた。その光景を眺めていた時、アルトゥアの背中が激しく動いたかと思うと、ローブの中から真っ直ぐ、空に向かって腕が伸びてきて思わず身構えた。
それが、彼女との出会いだった。
頭頂から毛先に向けて、とても薄い桃色から濃い桃色に変化する髪色は彼女の愛らしさを象徴し、まだ幼く丸い輪郭、白い頬を髪より濃い色に染め、小さな鼻の上には大きな目。
深い海をそのまま嵌めたような薄い水色の目から、溢れた水がぽたりと白い肌に垂れた。
欠伸をしたらしい。
「アルゥ」
「リル、起きたのか?さぁ、トルシカに挨拶をしよう」
アルトゥアの背中を滑り降りてきた少女は、少年と翡翠に礼儀正しくお辞儀をして『リルルです』と、微笑んだかと思うとそのまま走って行ってグイネアのスカートの裾にしがみついた。
グイネアはしゃがみ込んで、リルルを抱きしめた。
少年の周りに女性がいなかったため、その光景をしばらく眺めていたら、アルトゥアが突然、振り返って前かがみになった。
「ヒスイ君と一緒に、私の家にいつでも遊びに来るといい。家が狭いから一緒に住むことはできないが、移動魔法が使えるようになったら通うことも容易い」
アルトゥアは顎に手を当てて唸って何かを考えたあと、にっこりと笑った。
「そうだな、トルシカの代わりに、魔法も剣術もなんでも、私で良ければ教えよう」
そうして、少年は少女と毎日一緒にいることとなった。
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