めくるめくテニスをしよう
夕方の太陽がテニスコートに長い影をつくり始めた頃、多くの中学生たちが合宿所に負け組を案内したり、早速ペアで打ち合いをしに散り散りになった。
取り残されたようになった真田と幸村は、距離を取ったまま動けずにいた。
(おかえり)
(その眼帯どうしたんだ)
(また一段と男を上げたね)
(勝つために来た)
(お前とのテニスを極めるために)
(無事でいてくれて良かった)
お互いに聞きたいこと、話したいことは山ほどあるはずだったのに、何ひとつ言葉にならなかった。
少し離れた所で柳と再会した赤也の声がして、
「赤也がね」
当たり障りのない話題でこの場の流れを変えようとしたのは幸村だ。
今はまだ互いの心情に触れたくなかったから。
「赤也は変わったよ。俺にとっては残念だけど」
「……」
「どんな手を使っても、勝利に執着する赤也が好きだったんだ。俺と同じなんだと思っていたからね」
話すうちに、やるせない寂しさを感じて地面のコートを軽く蹴った。
「でも違った。デビル化を捨てた赤也はいい顔をしていると跡部に言われたよ。きっと陰では皆に、立海の部長は何をやっているんだと囁かれているんだろうな」
途方に暮れる幸村に、真田はかける言葉が見つからなかった。
「白石にお礼を言っておいてくれ。俺からはまだ言えないから」
「幸村…」
「赤也はもう自由だ。お前も、これからは自分のためにテニスをしてくれ」
踵を返す幸村の背中に、我慢の限界に達した真田が叫んだ。
「お前自身はどうなんだ!」
「…俺のテニスはきっと人を不幸にする。後輩ひとり真っ当に育てられなかった。勝利と引き換えに」
半身に構えた幸村が、再会して初めて真田を見つめた。
「日本代表に選ばれたからにはどこかで清算するつもりだ。そして見返してやるんだ。過去の記憶に」
迫る夕闇を背に佇む幸村の姿は、真田にこれ以上付け入る隙を与えなかった。