めくるめくテニスをしよう
地獄の特訓に耐えながら幾日目かの夜ーーー。
寝床の洞窟を一人抜け出した真田は、月明かりの下に腰を下ろした。
手足の皮膚は皮がむけたり、豆や水ぶくれで血が滲んだ。それも今は固くなって痛みも感じなくなっていた。
理不尽とか不公平だとは思わない。
厚くなった手のひらを開いてみれば、思い出すのは幸村の二つの顔ばかりだった。
同士討ちで勝敗のついた試合のあと、型通り握手を求めた幸村の手を拒んだ時の哀しそうな横顔。
もうひとつは、バスで合宿を去る負け組を見送る時に見せた感傷にふける事なく向けられた力強い視線。
どちらも会話ひとつ無かったが今思えば、
(おめでとうも、頑張れよのひと言もかけてやれなかった)
バスの車内から盗むように見た幸村の、妥協を許さない顔つきは、むしろ真田の方がエールを送られたような気になった。
(俺は負けて拗ねるただの子供だ…)
それにしても、終わりの見えない野性味あふれるこの特訓に参加したのが幸村でなくて良かったと思ったのは事実だ。
完全完治ではない幸村の体が心配だった。
特訓中、一度だけ山のふもとから救急車のサイレンを遠くに聞いて恐怖した。
それをわかってくれるのは、柳と仁王、ジャッカルで、彼らの存在に支えられて精神を保つ事ができたのだった。