犬も歩けば棒にあたる


結局、そのまま最後までやるだけの事はやってしまった真田が理性を取り戻した時には、傷だらけの幸村が横たわっていた。
噛み跡と吸い付いてできた鬱血と、体を押さえ付けた痣が点在している幸村の体を見て、自分がしでかした狂暴な振る舞いに頭を抱えた。

疲れきったのだろう。
眠りから覚めた幸村が、ぼんやりと瞼を開けた。
真田はあわてて幸村をそっと仰向けに寝かせると、その体にタオルケットを掛けてやった。
それからベッドの下に飛び退いて、

「すまん幸村!」

土下座した。
こうなってしまってはもう手遅れで、おとなしく沙汰を待つしかないと腹を据えた。
冷たく人を見下げる幸村の、それでいてぞくりとする表情を向けられるのを待った。

ーーー真田、お前はまるで獣(けだもの)だな

そんな幸村の冷笑が聞こえるようで、それなのに股間のモノが浮わつきそうで嫌になる。

黙ったままの幸村が気になっておそるおそる顔を上げると、期待と裏腹なとぼけた表情がそこにあった。
タオルケットにくるまる幸村が小さな声で言った。

「ん、いい。よかったよ…」

夜明けが近づいて、厚いカーテンの隙間から太陽が顔を出し始めたころだった。

「真田になったゲンも、なかなかよかったよ」

窓から射し込む朝日に照らされたのは、うっとりした幸村の表情だった。
ほっとしたのとうれしいのと、幸村を抱きしめたいのと…
でもその前に否定しておきたい。

「その…確認だが、もともと俺がゲンになったのであって、ゲンが俺になったわけではないぞ」

「え…」

「え??」

「じゃあゲンはもう…」

気落ちした幸村を見て、真田の方こそ泣きたくなる思いだ。

「むぅ…」

「うそだよ!」

顔いっぱいに笑い飛ばす幸村が、

「犬よりも今はまだ真田に限るな」

仕掛けるように言った。

「笑い事ではないぞ」

「な、次は俺がお前のペットになろうかな」

何の動物がいいかと聞かれて、真面目に考えた。丸裸で、ふわふわのうさ耳と丸い尻尾を付けて丸くなる幸村を。
見当違いの想像をして、心の中で密かに待ち望んだ。


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