犬も歩けば棒にあたる


めでたく犬になれた真田は、想像以上の幸村の寵愛を受けた。
頭を撫でられ、首に抱きつかれ、ソファーで密着してうたた寝もした。
名前を呼ばれれば飛んで行ったし、コマンドを出されればきっちり従って幸村の喜ぶ顔を間近で拝んだ。

(く…その笑顔は俺の宝だ!)

しかし犬らしく過ごせたのも束の間、誰もいない家で過ごす幸村は、人間真田といる時よりも気が抜けている。
真田の思わく通り、犬の視点から幸村の行動をつぶさに観察したら、もっと幸村をどこまでも愛してやまなくなった。

とりわけ風呂あがりは刺激的だった。

(パジャマを着てくれないか―――!)

下着一枚でタオルを首にかけただけの幸村は、部屋の中をうろうろする。
目のやり場に困り果てた真田が伏せをしていると、目の前に幸村のしっぽりした肌が迫ってきた。
しゃがんだ幸村の今宵の下着はボクサーブリーフで、中の形がわかりやすい。それが真田の鼻の先すれすれにあるのだからたまらない。

(幸村の…これは俺専用だ)

犬の嗅覚のせいか、いつも以上に幸村の体臭を感じる。それが心の急所にふれて、そわそわした心地よい気分を起こさせる。

『牙は隠せよ』

柳の忠告が耳に痛い。
夜になると、いよいよ真田の自制心があやしくなってきた。
正直なところ、犬でいるのがもったいないと思い始めた。自慢の体の機能が使えないのが辛くて、イタズラを仕掛けてみたりした。

そんな時、膝を抱えた幸村が、とうとう切ない声で確かに呟いた。

「弦一郎…」
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