犬も歩けば棒にあたる
こうして幸村が不幸になったのも、そもそも真田に原因があったとしたら―――
「犬とはそんなに飼い主に愛される存在なのか」
幸村がペットについて、とりわけ犬に憧れていると聞いてから、真田ははやる気持ちを抑えきれずに柳を訪ねた。
「弦一郎。俺はド〇え〇んではないぞ」
聞く耳を持とうとしない柳を強引に留め置いて、無理な言いがかりをつける。
「何とかならないか。参謀ではないのか」
「…犬にならずとも甘えればいいではないか」
「俺から甘…えるなどできるわけなかろう!どうやってそんな…白けられるのが落ちだ」
とち狂った真田は、何としても柳を説得する気だ。わざとらしく、ポンとひとつ手をうって、
「む…そうだった。犬を用意する約束をしてしまったのだ」
「は?」
「幸村は楽しみに犬を待っている。幸村の夢を叶えるためだ。ならば俺が代わりに犬になろう。万が一にも噛み付かれたら一大事だからな。その点、俺なら安心だ。そうは思わないか蓮二」
いかにも妙案だとばかりに柳に迫る。
整理すると、真田の要求は2つ。
1.たまには幸村に甘やかされたい甘えたい。
2.幸村のむき出しの私生活を覗き見たい。
要は犬に嫉妬した真田の妄想が超越して、幸村に対していやらしい事を企んでいる。
「牙は隠せ。万が一にも精市に傷が付いたら…」
「それを防ぐために俺が犬になるのだ。ひとり留守番する幸村の番犬になってみせよう」
意気込む真田に柳はため息をついた。
(許せ精市。まあ、弦一郎も犬もそう変わらないだろうからな)