犬も歩けば棒にあたる



「本当に連れてきたのか」

玄関のドアを開けて驚いている幸村を前に、柳は当然といった態度で犬のリードを手渡した。

「イメージしてた犬と違うんだけど」

真田からは小型犬と聞いていた。
なのにそこにいるのは、

「ラブラドールレトリバー。毛色は見ての通り黒。イギリス原産の狩猟犬。retrieveは“獲物の回収”の意。主に水辺で撃った水鳥を回収する役についていたため、泳ぎも得意……」

「わかったよ。拒否権はなさそうだ」

「では、任せた」

「ちょっと…名前くらい教えてくれ」

「…げん」

「ゲン?」

言われてみれば、そんな感じがしてくる。
漆黒の毛色に知的な黒目。
ほどよく筋肉質な体つきで、鞭のようにしなる尻尾をブンブン振っている。

「図体はデカイが問題ないだろう」

幸村の家構えを見上げて言った。

「精市思いのいいやつだ」

「え?うん、まぁ…」

リードの先の輝く黒目に見つめられて、幸村は柳を見送った。




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