犬も歩けば棒にあたる


幸村は動物が好きだ。
ならば飼ってもよさそうなのに、

「好きだから飼えないんだよ。いなくなったとき悲しいだろ」

心の底から拒絶を示した。

「俺、飼ったら絶対可愛がっちゃうもん。もうさ、毎日溺愛すると思うんだ」

本当は飼ってみたいのだろう。
語る眼は生き生きとしている。

(もん…そんな幸村が超絶可愛いのだ!)

胸にぐっときた真田である。

「だからさ、耐えられないと思うんだ。自分のためにも飼わない」

きりりとして、固い意思を感じた。

「それに動物はものを言わないからな。自信ないよ…」

あきらめたように肩を落としてしまう。
そこへ小さな犬を連れて散歩する人が通りすぎて、

「可愛いなぁ」

見つめる眼差しはやさしい。

(幸村に飼われる動物はしあわせだな)

うらやましいとさえ思いはじめた真田は、小さな犬の後ろ姿を見送った。

「な、あんな子が家にいてみろよ。付いて回ってくれたら可愛いだろ。眠る時も食べる時も、いつも一緒だ」

「いつも、か」

「そう。どこでも一緒だ。友達も家族も知らない俺の側に。犬になら気兼ねないからな」

(誰も知らない幸村を間近で見られるなんて、犬とはなんて破廉恥な生き物なのだ!)

あられもない幸村のプライベートをあれこれ想像する真田は、

「…試しに飼ってみないか」

「人の話聞いてたか?」

しらける幸村に畳み掛ける。

「一時的でいい。預かってほしいのだ!」

怪訝な顔をする幸村に、目を爛々と輝かせて言った。
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