つまり だから ほら
ついこの間まで未熟だった幸村が、今はこうして体を差し出している。
愛するからには、いつかは巡ってくるであろう行為を真田はありがたく受け入れる。
しかし現実は、神聖なものを冒そうとする者を歓迎しなかった。
言われた通りにじっと耐える健気な幸村を見ていると、複雑な気持ちになる。
体内に入れた指をそっと抜いた。
幸村に気づかれないように、その指にキスをする。ありがとう、という気持ちをこめて。
「真田…?」
小さく震える声で、幸村が呼んだ。
「ああ、もう楽にしてくれ」
「…っ、なんで!」
「さあ、なんでだろうな」
悔しそうな幸村を前に、涙ぐんだのは真田の方だ。
幸村の気持ちとは裏腹に、体は真田の侵入をこれ以上許していないとわかってしまった。体の声を無視するのは簡単だったが、それでは二人とも傷ついてしまう。
それに、強気な幸村も心根はこわがっているのがわかるから。小さい頃から幸村を見ている真田には、そんな幸村のわずかな感情も見抜いてしまう。
「なんでお前が泣くんだよ」
幸村の不服はもっともで、真田は黙っていた。無理やりにでもやってしまえば、幸村の顔を立ててやる事ができたのだから。
「なぁ…真田ってば!」
語気を強める幸村が真田を不安にさせる。
愛する人の要求をすんでのところで蹴ってしまったのだから。
それでも…
「どうか見捨てないでほしい」
かすれた涙声が情けない。
がばっと、幸村を抱きしめた。
「だったらしろとお前は言うかも知れないが、許してほしい。俺を嫌いにならないでくれ…」
「……」
「わかってくれないか。たとえ体を繋げなくても、ちゃんと俺はお前を…」
「もぅ…そんなだから惚れられるんだよ」
大きなため息をつかれてしまう。
腕の中から抜け出た幸村を不安な面持ちで見守る。
「俺がお前を捨てる?冗談じゃない。あり得ない」
ちょっとむすっとした幸村の両手が、真田の両手を包んで胸の前にもっていった。
「いいかい、真田」
垂れそうになる鼻水をすすりながら、幸村の声に耳を傾ける。
「うすうすわかっていたよ。お前は抱けないんじゃないかって。俺が無理押ししたからな。乗り気じゃないのに、ここまで付き合ってくれて感謝してる」
「違う!」
幸村が言うのは、この日の手落ちを全て自分に責任転嫁しようとしているのではないか。
そして、以後二度と同じ機会を授けてくれないのではないかという絶望。
「違うぞ幸村。俺の方こそ感謝している。お前をこの腕に抱く夢を叶えてくれて」
「未遂だけどな」
自信をなくして申し訳なさそうに言う幸村に、余計な台詞はいらないと思った。
「好きだ。幸村が好きだ」
いつか体が心に追い付いたなら、その時はまた…と願わずにはいられない。
幸村を愛さずにはいられない。