つまり だから ほら
幸村が道場に訪れていたと人伝に聞いて、それも苦しそうな様子で立ち去ったと知らされれば真田はじっとしていられない。
脱いだ防具を部員に押し付けて、汗も乾かぬ道着袴で裸足のまま幸村の後を追った。
ユニフォームを着ていたというから、部に戻るのだろうか。だとしたら、と道場からテニスコートへの近道に方向を変えた。
(幸村!)
幸村の後ろ姿を見つけるが、立ち止まって肩で息をするに背中に不安がよぎる。
「幸村」
呼びかけにびくっとする反応は異常だ。
「どうしたのだ」
「………」
「部で何かあったのなら俺も行こう」
「いいからほうっておいてくれ。今はお前を見たくない」
「……!」
逃げるように走り出した幸村が少し行った所で崩折れる。
慌てて近寄って差し伸べた手をはたかれた。 理由も言わずに恋人である自分をいきなり拒絶されては真田も納得がいかない。
幸村の真正面に回って少し荒っぽく顎を掬った。 袴の汚れるのもかまわずに、膝を地面に着いて真剣な眼差しを幸村に注ぐ。
お互い押し黙って、やがて幸村の涙が先を促した。
「口で言わねばわからんのだぞ」
口調は厳しくも、その視線は優しい。 幸村のために何かしてやりたい一心なのだ。
「観念しろ。俺はお前を放っておく事などできんのだからな」
「俺は…」
「ん」
「俺も、俺だって褒められたいし、お前にテニスを教わりたい。それと、やっぱりその格好でうろうろしてほしくないし、剣道部なんてやめちゃえよ!!」
両腕を突っ張って真田の胸板を押して、
「最初から剣道部に入って部長になればよかったじゃないか!!そうすれば、お前がいれば優勝できるだろ!」
「なんでテニスを選んだんだよ!俺の後ろにいるんだよ!なんで俺が部長なんだよ、お前の方がきっと、もっと……」
過呼吸になりそうな幸村を心配して、背中をさすってやった。
「俺以外の誰かがお前を見てるんだ。真田弦一郎をテニスに縛り付けているのは俺のせいだと責められているような気さえする。それでも、そんな真田は俺のものだって信じてる。でもさ…剣道と俺、どっちが好きなんだよ、もう…これでいいだろ」
苦悶してうつ向いた幸村の手が、ハーフパンツの前を押し隠すようにしているのに気がついて、
(まさかとは思うが…)
その手をつかんで持ち上げる。 あっ、と小さな悲鳴を上げた幸村の反応を見て確信する。
「幸村、これは」
首を横に振って応える幸村が愛しかった。
「俺の何がお前をこうさせたのだ。聞かせてもらおうか」
「離…っ」
「聞かせてもらおう。幸村」
普段なら断じてしない意地悪をしたくなる。初めての衝動に真田も戸惑った。
(俺はなんて酷い事を言うのだ。幸村が嫌がっているというのに)
しかし幸村のパンツの中の高揚を知った今、男として試してみたくなる。
「剣道してるお前を見てたら…いいなぁって…そしたら、ぎゅうってした」
(ぎゅ…っ?!)
恥じらいの色を見せながらそんな風に言われて、真田もただではいられない。
「真田。俺、これでいい…?」
これとは、何を指すのか。 どのみちもう引き返す余裕はないのだ。
「乗れ」
屈んで背中を差し出した。
「その様子では歩けまい。否、歩かせるわけにはいかん」
「う~ん」
嬉しさと照れくささが混じったような幸村を促して、ひょいと持ち上げる。 背中に当たる幸村の熱が実感となって真田の足を早める。 幸村も同じだろう。 時折息を詰めて吐く呼吸が艶かしかった。