つまり だから ほら
返答を渋る真田と再び机に向き合った幸村は、もう冷静ではいられなくなった。
「なんで教えてくれなかったんだよ!自分だけ抜け駆けするなんて。それで真田はいつからしてたんだ!」
机を叩いて恋人に当たり散らす始末だ。
「いつからと言われてもな…中1の終わり頃だったか…?」
「なんで俺を誘わなかったんだ」
「誘うとか教えるとか、そういうものではないだろう…」
「じゃあどこで知ったんだ」
「俺には兄がいるからな。自然と知るのだ」
「………」
そもそも友人とそんな話が出ないのだろうかと疑問視したが、自分もそうであるように、幸村の外貌を前にするとなんとなく下世話な内容ははばかられるのだろう。
「焦らずとも幸村もそのうち…」
突然、立ち上がった勢いで幸村の椅子が大きな音をたてて倒れた。それから正面に座る真田の胸ぐらを思いきりつかんできたから、危うく真田も椅子ごと後ろに倒れそうになる。
「危、な…っ!?」
なんとか踏みとどまる。
こんな時でも幸村に怒ったりしない。
「悔しいんだ…いつだってお前と対等でいたいのに」
「幸村…」
「好きだよ、真田。好きだ」
頬ずりしながら言った。ときに拙い愛情表現をするのが幸村だった。 真田への思いをどう表現していいのかわからずに、うまくいかなくて歯がゆいのだろう。
「幸村、こっちに」
そっと体を離して目配せすれば、幸村はおとなしく真田の側へまわった。 手を引いて、膝の上に誘う。 少しためらった幸村に、
「構わんから来い」
真田の馴れない笑顔は幸村だけのものだ。 他人が見れば白けるようなその笑顔も、幸村にとっては胸がきゅんとなるかけがえのないものだ。
言われるままに向かい合って、真田の膝を跨いで座る羽目になった幸村はすっかり参ってしまう。 道着の匂いが、テニスの時の真田とはまた違う魅力を引き出している。
(俺だって剣道をやる真田も好きだ)
(でも、テニスコートに立つ真田は特別なんだ)
先ほどの女子の会話に張り合いたくなる。
「剣道部はどう?」
聞きたい事は別にあるのに、上手く言えない。
「うむ、毎日俺が顔を出せばいいのだがそうはいかんからな」
「なんだウチ(テニス部)と同じじゃないか」
「お前がいるだろう。幸村がいれば部は引き締まる。ウチは安泰だ。剣道部にも見習ってもらいたいものだな」
真田は得意気だ。
(俺の気持ちは不安定だよ)
「あまり肩入れしすぎるなよ」
(お前がいないと…)
「心配には及ばん。剣道は俺のテニスの鍛練と繋がっているからな。とりあえず来月の剣道大会まで少し時間をくれないか?」
(わかってる)
「何だ。俺が部にいないと寂しいのか?」
コツンと額と額を当てて真田が言った。 こんな時、茶化さないで真剣な面持ちで向き合うのが真田だった。
そうされると、幸村の気が塞ぐ。 冗談でも言ってくれれば、強気で否定して返せるのに。
「ちゃんと剣道部を優勝させろよ」
でもこの日の幸村は頑張った。 大人な真田に近づきたかったから。
「ああ。ありがとう。必ず優勝させてみせるぞ」
嬉しそうにして、力強く抱きしめられてしまえばどうにもならない。