つまり だから ほら
テニスをすれば完全無欠な幸村だ。
冷酷で冷厳な振る舞いは、許し難く忌避される事も少なくない。 そうと知っていても真田がそれを止めないのは、幸村が気持ちよくテニスをしてさえくれればいいと願っているからだ。一種のファン心理といっていい。
そんな真田も今回ばかりは幸村を拒絶するつもりだ。
(時期尚早すぎる)
いい事と悪い事の分別をつけられるのは真田の方だ。 ただし喜ばしいのは、幸村が自分を想いながら眠れぬ夜を過ごしてきたという事実が明らかになった事だ。
(できれば幸村の気持ちを傷つけずにわからせたい)
それにはやはり嘘偽り無く告げるのが真田流だろう。
「幸村。気持ちはわかる。わかるが、俺たちはまだ未熟だ。あと数年待てばその時は…」
「わからないな」
「……」
まるで聞き入れようとしない幸村は、ふいとそっぽを向いた。テニスの外では真田はこの恋人に手を焼く。
「いいだろう。わかるように教えてやろう」
ふたりは机上に額を付き合わせて、真田はプリントの裏にペンを走らせた――――
「……えっ!」
真田が身振り手振りを交えて懇切丁寧にノウハウを説明すると、よほど衝撃的だったのか幸村は固まった。
「これでわかったろう。今はまだ負担が大きすぎるのだ」
ため息をついて、椅子の背もたれに背中をもたせかけた。 教室の天井を見上げながら、いつか幸村を腕の中に収める自分を想像した。
「よく恥ずかしくないな…」
「な…っ!お前が教えろと言うから…こんな説明は二度と後免だぞ!」
椅子から跳ね起きて抗議する。
しかし幸村は両手で顔を覆って、
「でもありがと…」
ぽつりと呟いて、指の隙間からきれいな瞳を覗かせるのだ。
だからつい余計な世話まで焼いてしまう。
「だがもし、もて余すようならば慰め方を工夫してみるのはどうか。その…普段どうしているのだ」
ここまでくれば、男同士だから悩みがあれば聞いてしまおうという親切心と、下心が半分ずつの真田である。
「なぐさめ…?」
この顔で一体どんな風に性的な満足を得ているのか。 想像でしかない幸村の正体を暴いてしまいたい。
「どうなのだ」
そんな邪な気持ちをおくびにも出さないで、いつものように眉間にしわを寄せて難しい顔をしてみせた。
すると幸村は不思議そうな顔をした。
(まさか俺にはっきり言えというのか?わざとそんな顔をして俺をからかっているのではあるまいな)
幸村の悪ふざけにも付き合わされる事の多い真田だったから、この時も疑って沈黙していたら、
「真田の代わりになる方法があるなら教えてほしい。なぐさめ方ってなに?」
何ということだろう。
無邪気な幸村の質問を見破れなかった事に頭を抱えた。
幸村は“うぶ”なのだ。
それなのに先に知識を与えてしまった真田の罪の意識は重い。
「真田。はぐらかすなんてしないよな」
「……」
幸村相手に言い逃れできないのは、ずっと前からわかっている。