俺の幸村



「今日の真田は心ここにあらず、といった感じでなかなかよかったよ」

褒めているのか不満足なのかわからないが、

「そうか」

返事をして、幸村の汚れた手のひらをハンカチで拭った。

「貪欲な真田は好きだ」

東屋のベンチに隣り合って座って、俺の反応を試すように顔を覗き込んで幸村はくすりと笑った。
貪欲なのは同じだろうと言って返してやりたいが、その笑顔ひとつで丸め込まれてしまうのだ。 何より最愛の人に好きだと言われて悪い気はしない。

「フン…お前が望むならこれからもそうするとしよう」

指を絡めて強く手を握る。
どうだ、と負けじと真正面から幸村の瞳をとらえた。

「ぁ…なんだよそれ」

わかりやすく取り乱す幸村は貴重だ。 見込み違いの俺の言動に魅せられているなら満足だ。 指を振りほどこうとしても、許してやらない。

「いつまでも」

尻に敷かれる俺ではないぞと言いたいところだが、

「いつでも俺の傍に来ればいい。どんなお前も受け入れてやる」

弱気な発言に切り替えたのは、やはり今まで通り下手に出ている方が落ち着くような気がしたからだ。

「それなら安心して苦労かけさせてもらおうか」

幼少の時から変わらない、俺を見つめる力強い眼差しがもどった。幸村の威光は、俺の励みだ。
雲間から陽光が射し込んで、今日の楽しいひとときの終わりを意識する。


end
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