俺の幸村
『え、どうしたの真田くん』
『うん、え…と…』
ようやく待ちわびた幸村君が校門から出て来たのに、うまく言葉がでなかった。
本当は、テニススクールがお休みの日はいつも幸村君に会えないのが残念だった。 だから今日は勇気を出して、学校から帰ったら急いで幸村君の小学校まで来てみた。思っていたより遠くて、途中で迷子になりそうで泣きそうになったことは幸村君には絶対内緒だ。
それよりも、幸村君を囲んでいる知らない友達のせいでうまく話せないのが嫌だった。
”幸村君の友達?“
”変なの、全然しゃべらないじゃん“
”ほっといて行こう、幸村君“
くちぐちに勝手なことを幸村君に吹き込んでいる。 幸村君と毎日一緒にいるのがこんなやつらなんてズルい。 おれだって、幸村君と同じ学校だったらどんなに楽しいだろう。
やっぱり帰ろう。 幸村君を困らせてしまう。 でも、また道に迷いそうで帰れる自信ない。
だめだ、泣くな、泣くな…
『ぼくの大切な友達なんだ。今日は真田くんと帰るよ』
はっきりとそう言った幸村君が、うつむいていたおれの手をつないでくれた。
『真田くんすごいね。よくここまで来れたね』
『すごく、ないよ…スクールお休みだし』
にこりと笑う幸村くんを見たら、また泣きそうになったけどがまんした。
『そうだ、ウチにおいでよ』
はしゃいだ幸村くんの背中のランドセルが音をたてた。おれもランドセルを持ってくればよかったと思った。 そうすれば、同じ学校に通っているような気分になれたのに。
ぽつぽつ雨がふってきて、幸村くんは持っていた水色のかさをポンっと広げて見せてくれた。
『…ありがとう』
あんまり幸村くんがくっつくから、どきどきした。 おれとしたことが天気予報を見ていなかったなんて、たるんでるなとがっかりした。
『…おれが持つ』
幸村くんの手からかさを取ってにぎった。 幸村くんがぬれないように、ぬれないように気をつけてたら笑われてしまった。
(あれは小学4年頃だったか。初めてランドセルを背負った幸村を見たのだ。なんというか、幸村も俺と同じであったのだと実感したのだ)