俺の幸村
やはり思った通りだ。 少し先の空は明るく晴れているのに、俺たちの頭上の雲はどんよりとしている。
校舎を出てその異変にいち早く警告したにもかかわらず、まんまと天神の思う壺になったではないか。
「やはり降ってきたな」
「なんだよ、俺が駅までなら大丈夫そうだから行っちゃおうって決めたせいだっていうのか?」
ポツポツと落ちてきた雨粒を手のひらで感じ取っていると、幸村が嫌みたらしく言った。
「そうではない。俺の予想が的中しただけだ」
今朝の天気予報は傘の出番なしだった。経験上、季節の変わり目の天気の急変、通り雨だろう。 少しの間雨宿りすれば激しい雨もすぐ止むに違いなかった。
だが、もう遅いのだ。 こんな時の雨脚は速い。 すぐに雨粒は大きくなってザアッと落ちてきた。
「真田!いい所を思い出した。そこで休もう」
隣にいた幸村が駆け出した。 駅とは逆の方へ向かった背中を追う。
幸村の制服のズボンを蹴り上げた滴が容赦なく汚し、ワイシャツの背中があっという間に濡れ衣になった。
「幸村!どこまで行くつもりなのだ」
雨音に負けないように声を張って、前を行く背中に叫ぶ。これ以上は幸村の体に毒だ。
「もう少しだ!」
幸村は振り返らずに走り続けて言った。