キングと神の子
「跡部。君もだいぶ限界みたいだね。さっさと脱いだらどうだい?」
高価そうなチノパンの前の染みを見つけて、そこに膝を押し付けた。
さんざん跡部に責め苦を味わされて、それでもなお抵抗するのは幸村のプライドが許さないからだ。
本当のところ跡部にすっかり心酔している幸村だったから、下になってもいい夢がみられるかも知れないと思っている。 思っているが、簡単にはそうさせないのは二人の関係はこれから先も、一通りではいかないのだと知らしめたくもあったからだ。
(跡部…この俺をどう攻略してくる?)
強気でいても、身体中の血液がどくどくと流れているのを感じて落ち着かない。
もどかしい。 はがゆい。 早くも揺らぐ気持ちの弱さを知る。
きっと跡部になら、誰にも譲れなかった幸村精市という足かせの一部を託せるだろう。
「そろそろ潮時だと思う。君も、俺も」
少し譲歩して相手の出方を見た。
跡部は熱情を圧し殺したような目をして無言で睨みつけてくる。 恐怖と期待。 心が張り詰めて、やがて理解した。 この身体を犠牲にしても跡部の肉欲がほしい。
「…よろしく頼むよ、跡部」
そう言ってからおそるおそる目を合わせたら、さっきまでの殺気立った様子はなくなって、
「苦しみの先に快楽があることを教えてやるよ」
とても優しい眼差しで抱きすくめられた。
経験したら、苦しみ半分快楽半分といったところか。 洗練されたセックスなんだと思う。 他の相手を知らないからわからないけれど、激しさにぐっと堪え忍んでいるとやがて甘美なご褒美をくれるといった繰り返し。
いつしかそのご褒美がほしくてほしくて、幸村の方から積極的に自分を魅せて跡部を誘った。
「ぁ…跡部…なんだかすごく気持ちがいいんだ…」
「いいじゃねーの幸村。そうやって俺様を煽ってな…っ」
右腕を伸ばして跡部の髪を撫でてみる。 跡部は時折、猫みたいに目を細めて気持ちよさそうに身体を奥へ沈めてきた。
二人で上り詰めることができたのも、跡部の技量のおかげだろう。 気だるさと解放感と達成感と… 二人は、やれやれというように顔を見合わせて照れ隠しに笑った。