キングと神の子
そうと決まれば早速だということで、どこからともなく現れたリムジンの車中に幸村はいる。
『幸村さんは…跡部さんのものです…』
『二人ともいってよし』
あっという間に樺地に抱き上げられて、そっと後部座席に下ろされた。 ハンドルを握る榊監督は、コートに選手を送り出す表情となんら変わりない。 跡部に目で訴えても、
「俺様に任せておけ」
すっかりいつも通りの自信たっぷりの態度で、幸村に有無を言わせない。
窓を開けると、見なれた海岸沿いの景色が目に映る。
(なにも持たないで出てきちゃったな)
あるのはスマホと立海ジャージだけ。 ひとりでに、ジャージの胸のエンブレムをぎゅっと握った。
少し目をつむったつもりが、大分時間が経っていたらしい。
「ようやくお目覚めか」
「そうか…どこからが夢?」
隣の跡部にちょっととぼけてみたのは、車内に差し込む西日の物悲しさが、少しだけ幸村を怖じ気づかせたから。
それは現在、問題意識をもって素直に受け入れられない気持ちがあるからだ。
「それで、俺が下?」
「当然じゃねーの」
すでに下にされている身体を起こして、
「ちょっと考えさせてくれないかな」
「俺様が好きなら何を考える必要がある。好きなら好きにされるまでだろ」
「その台詞、そっくりそのままお返しするよ」
ふたりは上になり下になりして、揉めに揉めた。 いつの間にか取っ組み合いが楽しくなって、それは跡部も同じらしく童心がちらりと見えて嬉しかった。
そのうち跡部の整えられたヘアセットが乱れ、お互い息を切らしはじめた頃、幸村の身体に変化があった。
「どうした幸村。動きが鈍ってるじゃねーの」
髪を掻き上げただけの跡部の仕草がエロチックに感じてしまう。 続けてシャツのボタンを外して見えた鎖骨が、肌の色が、幸村の目を奪った。 気を逸らそうと思っても駄目だった。
「そんなにがっつくんじゃねーよ」
もっと生身の跡部を見たい欲求があふれてきて、高価そうなシャツのボタンをつかんで引っ張る。
クツクツ笑う跡部は、幸村のふわふわの髪をすいてそっと立海ジャージを落とした。
「さぁて、ようやくショーの始まりだ。俺様の美技に酔いな」
脱力した幸村は黙って目を閉じて応えた。