キングと神の子


跡部が部屋を出ていってしまうと、現実が幸村を孤独にさせた。

「跡部!」

『アーン?』

すぐにコールに出た跡部の優しさが伝わる。

「電話、出てくれたんだね」

『神の子からの思し召しなら受けとるぜ』

「俺、神の子なんかじゃないよ」

『利用したっていいンじゃねぇの』

スマホを握りしめて、昨日からほっぽったままの立海ジャージを羽織って部屋を飛び出す。

「跡部!」

そこに佇む背中に思いきって呼びかけた。

「ありがとう!俺、跡部が…!」

『ちっ、目立ってしょうがねぇだろ』

パジャマにジャージを羽織って裸足のまま駆け出したから、近所の人目を引きかねない。 ずかずかと向かってきた跡部に首の後ろから腕を回されて、バランスを崩しながら幸村は思わず笑った。

「目立つの好きだろう?」

「俺様ひとりで十分だ。それで、覚悟は決めたかよ」

「覚悟じゃない。本望だ」

「その口から聞かせてもらうぜ」

「好きだよ跡部」

跡部が立海ジャージでふたりの頭をすっぽり覆ってくれる。
即席のふたりだけの空間。

「君となら、まだ誰も知らない俺自身に出会えそうだ」

「願ってもない選択だな。感謝してるぜ、幸村」

重ねた唇は思っていたより乾燥していて、ジャージの埃っぽい匂いは昨日の戦いを確かな記憶にさせた。
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