ファーストゲーム


この一件は真田の胸中を複雑にさせたが、こうして幸村を抱いていればいくらか安心できた。
ただ、軽口をたたくその唇が気に入らなくて噛みつくような口づけをした。

「…っ、なんだよ真田。まさかぼうや相手に嫉妬かい」

その“ぼうや”との因縁は、あれから程なく訪れていた。


―――その日は日曜日だった。
ひとり歩いて朝のテニスコートへ出かけて行くと、メンバーがすでに打ち合う音が聞こえた。 近づくほどに、そのうちの一人が幸村精市本人だと確信すると真田の気持ちはいつも安らいだ。
フェンス越しに幸村を見守りながら、彼のフォームの美しさにいつも見惚てしまう。

「へえ…なかなかやるじゃん」

しかしこの日は、同じく熱い視線を幸村に送る奴がいた。

「俺があんたに勝ったらあの人もーらい」

いいよね、と勝ち誇った顔をしたのが越前リョーマだった。 瞬間、真田が右手を振り上げた時、ガシャンと目の前のフェンス目がけて打球が飛んできた。

「ぼうや、それくらいにしてあげてくれないかな。世話をかけたね」

コート上から、よく通るいい声で幸村が言った。
真田は悔しいやら虚しいやらで、振り上げた右手を下ろして我慢した―――


この出来事がきっかけで、幸村と肉体関係を結ぶ事に成功した真田だった。
真田が誘った。 これ以上待ってはいけないと、本能がいった。
滑らかな幸村の肌を何度となく舐めとって、いよいよ下着の中へ手を差し入れていく。
高揚している幸村の反応は素直に真田の手のひらを迎えた。

「あぁ…さなだ」

もどかしいのだろう、腰を揺らして真田をその気にさせようと懸命だ。
扱いてやれば簡単に幸村を悦ばせることができたが、真田はそれに応えない。

「ぅ…頼むよ、苦しいんだ」

肉欲に弱い幸村は、容易い。
足を開いて腰をくねらせ、どこで覚えたのか後ろの穴まで弄りはじめた。

「まだ早かろう。許さんぞ」

見兼ねた真田は手中のものを握ってやった。

「違っ、擦れってば…」

綺麗な双眼を歪めて睨みを利かせてくる。
男の情欲を掻き立てるのが上手いと思う。そんな幸村が憎くもある。
それと、あの、挑戦的にふたりの間を侵してきそうな少年の顔が浮かぶ。
金輪際遭遇することはないと信じたいくらい、真田を不安にさせる存在になっていた。

「ほら、真田。我慢するなよ」

幸村の手が、猛りきっている真田を愛撫する。 かあっとなって幸村の胸に顔を押し当てれば、その鼓動が速くて安心した。

「俺は負けんぞ」

「わかってるよ」

幸村は少し笑ってから、

「いざとなったら俺がお前を守ってやるから」

真面目な顔をしてそう言った。
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