ファーストゲーム

少年の力強い眼差しを間近で受けた幸村は慌てたが、すぐに、自分を叫び呼ぶ真田弦一郎に何か弁解しなければと思った。
それくらいこの少年の自分に対する感情は、からかいでも悪戯でもないと受け取ったからだ。

(ただのぼうやだと思ってたら…)

めったに流さない冷や汗を首筋に感じながら、少年ではなくこちらを睨む真田に向かって努めて冷静に振る舞った。

「なんだ真田そこにいたのか」

言いながら、手首を掴む少年の手をそっと払った。

「なんだではない。そこで何をしていた」

(ぼうやを無視する気かい)

怒る真田の視線は、幸村しか見ていない。
冷や汗がまたひとつ、こめかみを伝った。

「このぼうやに道を尋ねてただけだよ」

「幸村!」

(キスでもしてるように見えたかな)

だとしたらまずいな、と思った。
斜め下の隣の少年に目をやると、怖がるどころか口許に笑みを浮かべながら、

「ふーん。そういうこと」

真田の剣幕を前にして、平然としたその横顔に目を見張った。

(一緒に謝ってくれる気はなさそうだ)

後で真田を説得するのに苦労しそうだなと、ため息をつく。

「ねえ、俺あきらめないから」

見上げる視線は挑戦的だ。
これっきりの出会いかもわからないのに、少年は得意気にそう言った。

「お手柔らかに」

たぶん、優しく笑えたと思う。
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