ファーストゲーム
これはまずいな、と歩みを止めて辺りをぐるりと見回した。 うーんと小さく唸ってみても、些細なことにも気にかけてくれるいつもの顔触れはどこにもなかった。
連絡を取ろうにも、幸村の荷物は真田が勝手に持って行ってしまっていた。
「もう…余計なことを」
今日はテニス部のレギュラーと東京まで足を伸ばして遊びに来ていた。
たまにはいいだろうと、なぜか真田の許可を得て午前終わりの学校帰りに電車とバスを乗り継いで楽しんでいた。
ちょっとの間、幸村がガーデニングのきれいな家の庭に見とれていたらこの始末だ。
「もう…みんな俺から離れるなよ」
まるで部員の方が自分からはぐれたかのような言い草をした。
中学生最後の春が始まろうとしている。
そんな幸村の少し先の曲がり角からすっと出てきた人を見つけて、
(ちょうどよかった)
と幸村が思ったのは、その人の背中にテニスラケットがあったからだ。
声をかけるなら親近感がある方がいい。 近づいてみれば、小柄な少年だった。
(まだ小学生…かな?)