こねまわして!愛ス
「て、え…?なんで」
そこには、帰り道で分かれたはずの真田がいた。
「ム…そう驚かれると傷つくな。その…来ては悪かったか?」
「だって、どうして。あれ、赤也は?」
現実を思い出して、わけもわからず真田に聞いた。
「事なきを得たから心配せんでいい」
「そう…て、え?その報告にわざわざ?メールでいいよ」
「いや…」
「面会時間もう終わりだぞ。あと15分で」
黙りこくってしまった真田の様子がおかしい。
「なんか用か?明日でいいよ。もうすぐ夕食の配膳が…」
「15分あるから来たのだ!」
「!」
驚いた。 テニス以外で俺に怒鳴る(意見する)真田の迫力に、らしくもなくビビってしまったんだから。
「た…たった15分じゃないか」
まさか今にも死にそうな病人の死に目に、会いに駆けつけるわけじゃあるまいし。
そう心のなかで冗談を飛ばしてみたけれど、俺の声は震えた。
「15分でもだ。15分もだ!お前がひとりの時間が減る。いや、俺が側にいたい。お前は鬱陶しがるかもしれんが」
「そんなこと…いつも、ちっちゃい頃から一緒にいるじゃないか。なに言ってんだよ。今更気にするまでもない」
なんだコレ。 病気って気持ちまで柔にするんだな。 今、真田が来てくれて、すごく嬉しい! だって変だろう? こんな簡単なことが嬉しいなんて。
これまでだって、真田はいつも俺のいるところに居たじゃないか。 毎日会ってるのに、当たり前の事なのに、どうしてだろう。
こんな感情、夫婦歴10年やってて初めてだ。
「泣くな」
ベッドが軋(きし)んで、真田が腕に抱いてくれた。
当たり前を、いつの頃からか惜し気もなく捨てていたのは自分なのだと気付く。
「ごめんな、ごめんな、真田ぁ…苦労かけるぅぅ…」
「な!何を謝るのだ?!俺はお前の事で苦労だと思った事など1度もないぞ。少なくとも、お前の居ない部に苦労はしても、幸村を苦労だと思うなどありえん」
汗くさいシャツにしがみつく俺を、真田は優しく、
「俺の出来ることなら何でも言い付けてくれて構わない」
と、なだめてくれた。
「なんでも…?」
「ああ」
「今すぐ抱いて。セックスして!真田が欲しい!」
「………っ!」
俺の精いっぱいの思いを伝えた。
やだな。心臓が止まりそうで、顔から火が出そうになってる。
「真、田…?」
「っ…許せ。今はこれで辛抱してくれまいか」
力強く、けれど優しく、ぎゅうと抱きしめられた。
「どうしても、どうしても、病床のお前を抱くなど、俺にはできんのだ。お前がいいと言っても、できん!わかってくれ…幸村…俺の性分だ。ただ―-―」
ばか。 わかってるよ。 ちょっと、軽口をたたいちゃっただけなんだ。
「ただ、お前の口から初めてそう切り出されて、俺は幸せ者だ」
初めて、なのか。 真田が言うんだから、そうなんだろうな。 項垂れる真田の後頭部を撫でてやる。
面会時間終了を告げる放送が鳴る。
「また明日、だな」
「幸村…すまない」
「なにが。俺も、幸せだ。セックスなんていらないかもな」
「なっ!それは…!退院したら、その時は」
どもる真田をベッドから追い出して、背中を押して病室から出した。 今夜はいい夢がみられそうだ。