食色性也『孟子』「告子・上」

  
幸村が目を開けた時、ちょうど真田が大きな"うさいぬ"のぬいぐるみを持って部屋の襖を開けた。
目と目が合って取り乱したのは真田の方で、うさいぬを盾にして顔を隠した。
幸村は鉛のように思い身体を傾けて、じっとうさいぬの奥の幼馴染み兼恋人を見つめた。…可愛い。 

(嵐のように抱かれてしまった…)

過ぎてみれば実現してしまった出来事に驚いている。
正直、早く終われと歯を食いしばっていた。

(真田…すごい吼(ほ)えてた。ご近所さんに聞こえてないだろうな)

そのうちに、言われるまま真田に任せていたら馴染んできた。その体感の変化を知られるのが恥ずかしくて無理に苦痛をつくって見せた。

ーーー直に終わる。もう少しだ。

真田にそう呼び掛けられた時、咄嗟に「まだだ…!」と自分から腰を打ち付けにいった記憶が蘇る。

(まずいな。どうしようか…)

お礼の言葉を出すのも変だし、まさか「気持ち良かったよ」なんて絶対言えない。
でもどうにか伝えたい。
今回の事で真田の存在の大きさ(身も心も)を痛感した。

「…せ、精市くんの身体が心配だなあ…?」

カスカスの裏声に視線を上げると、真田が子供をあやすようにうさいぬを動かしている。

「イタイところはあるかな……なんて、な…?」

見ていて恥ずかしい心遣いに、涙が出そうになった。

「可愛いな」

「そうだろう!ほら」

幸村の微笑みにほっとしたのだろう。真田が喜んでうさいぬを差し出した。

「ありがとう。俺の気持ちを動かしてくれて。もう逃がさないよ」

うさいぬをしっかり胸に抱いて真田を見つめた。

「それはこっちの台詞だ…!余所見は許さん…」
 
真田のキスに応えながら、これから先の未来も真田が付いていてくれる安心感がじんわりと心に沁みた。
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