食色性也『孟子』「告子・上」


「俺に任せてもらう」

真田は両腕を胸の前でクロスさせると、Tシャツの裾を掴んでそのまま頭の高さまで一気に引き上げて脱ぎ捨てた。
その光景を布団に寝かされたまま目の当たりにされて、幸村は引け目を感じずにはいられない。
真田の胸板に手を添わせて、服を脱がされる前に断っておく。

「…筋トレばっかりして。俺は違うからな」

同じ男としてどうしても比べてしまうのは仕方ない。
やっぱり俺ももっと鍛えようか…そうぼんやりと思っていたら真田に手首を掴まれた。

「またいつどうなっても、俺が傍にいる限りは抱えたい。あの時は…それができなかったのをずっと後悔している。いや、すまん。あんな事はもう二度と起こらないが…」

中二の秋の部活帰りを忘れるはずが無い。真田は自分が傍にいながら幸村が冷たいコンクリートに倒れた事が許せなかった。

「それに、無理をするなと俺が言ってもおまえは聞かないから困るのだ」

「真田も」

「俺はおまえの言う事は聞くぞ」

実際そうだったから返す言葉が無い。
幸村は体調不良の真田を目ざとく見つけると、テニスコートから追い出した事が何度かある。
それは小さな子どもの頃も今も変わらない。 

ーーーゲンイチローくんとテニスしたいからちゃんと治るまでゲンイチローくんとテニスしてあげない。

四歳の幸村は、泣きながらコートを後にする真田を涙目で見送った。

ーーー万全じゃないならコートに入るなと言っただろ。

発熱したと聞けば、中高になっても内心本気で心配した。

「それはおまえのためを思って…ぁ…」

「そういう事だ」

「わかった。今度倒れるときは、真田の傍で倒れよう」

「たわけが」

真田に服を脱がされて、やがてふたりは生まれたままの姿になった。
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