Face!Face!Face!!
「雨、まだ止んでなかったね」
車窓の流れる雨粒を目で追いながら、幸村がぽつんと言った。外は日が落ちて、雨に濡れた街灯が乱反射しながら次々通り過ぎていく。
「それならもっとできたじゃねぇの」
ついさっきの出来事だけに、幸村は赤くなった。
いつもなら「そんなつもりじゃない」と、嘘を言って返したのにできなかった。
「俺はまだおまえの中に入っていたかったぜ」
「もう…知らないよ」
名残り惜しさでお尻がむずむずして、さり気なく座り直した。
車内でなんてフィクションの中だけだと思っていた。
しかも勢いで向かい合ってやってしまった。これは男女がやるような感じがして、今まではなるべく避けていた。
それなのに、跡部はひどいことを教えてくれた。
幸村が座席に横になって、今日は正面からいいよと両膝を立てたら、
ーーーそういえば、正常位が恥ずかしいらしいが…
跡部は唇の隙間から白い歯を覗かせてクッと微笑った。
ーーー後ろからだと玉が丸見えなんだぜ?まあ、おもしろいから黙ってたが。
幸村は腰を突き出すように上げるから、愛撫の最中は揺れるそれを見て、幸村にもちゃんと付いていたんだな、と跡部を妙に納得させた。
車がトンネルに差し掛かって、車内がフッと暗くなった。オレンジ色の照明が、静かな車内をさみしい雰囲気にさせる。
「俺があげた香水あるか?」
付き合い始めに跡部がくれた香水を、幸村はいつも携帯している。まだ気恥ずかしくてつけられないけれど、それについて跡部は別にどうこう言ってこない。
いつも持ち歩いているのは、やっぱり特別感が嬉しいからだ。
それに、肌を合わせれば跡部は相変わらず「いい匂いがするな」と鼻を寄せて、そのままの幸村を満足そうに嗅いでくれる。
跡部は香水を空間に向けて1プッシュした。
跡部が選んだ幸村の香りが車内に広がる。
これが跡部が想う自分の香りなのかと思うとくすぐったい。
「自分の忘れたのかい?」
「いや、今はこれが欲しくなった」
跡部は目蓋を閉じて上を向くと、ふうっと吐息を漏らした。時折、トンネルの照明に照らし出された横顔が幸せそうだった。
こんな素敵な表情を見せてくれるなら、勇気を出して香水をつけてみてもいいかなと思う。
「このままどっか行きてぇなァ。…わがままだな」
「そうかい?跡部ならやりかねないと思うけど」
幸村は強気な顔で、瞳を閉じたままの跡部の横顔を見据えた。
「まあでも、今度電車に乗って出かけようよ。電車もなかなかいいよ。そのうち俺が免許取って先にキミを迎えに行くからさ」
「バァか…精市の運転なんて危なっかしくて命がいくつあってもたりねぇよ」
