Face!Face!Face!!


幸村は慎重に相手の手の内を読むと、ベースライン上、つまり手塚のバックハンドを狙った。
たった今前に出ていた手塚からしてみれば、深い所を突かれて後ろに走らなければならない嫌な打球だ。

「キミなら追いつくだろ?」

手塚は追いついたが、かろうじてラケットに当てたに過ぎない。ボールは高く上がって、ネットを越えれば幸村のチャンスボールは確実だ。

「もらったよ」

幸村は、スマッシュでボールを落とた位置を紙面上に鉛筆でぐるぐると塗りつぶして黒の点を打った。

「これで、40-40」

二人は、見開きにした大学ノートにまじまじと視線を落とした。
ノートをテニスコートに見立てている。サービスライン、センターライン、シングルスラインを引いて、綴(と)じ部分はネットというわけだ。
このコート上には、ここまでの試合展開がいくつもの線や点で書き込まれている。他の人が見れば蜘蛛巣のように張り巡らされて見える鉛筆の線も、二人は一からちゃんと記憶している。
さながら、テニス将棋といったところか。

「ここからが勝負どころだね」

幸村は、気難しい顔を崩さない対戦相手を見た。
真剣に考えてくれているのが嬉しかった。

これはイメージテニスだ。小学生の頃、真田とよくやった。最近は白熱し過ぎて喧嘩になりそうだから誘わなくなったけれど。
相手の出した打球の情報を元に、反応の速さや体勢の崩れなどを考慮して、返球するボールの状態を予想する。そうして導き出したボールの軌道や回転の有無などを伝えて、相手コートに向かって鉛筆で線を引く。
無茶なテニスではない。理論上無理があると判断すれば相手にポイントを譲るし、その逆もある。
その都度話し合って試合を進めていく。
幸村がなんとなく誘ってみたところ、意外なことに手塚が乗ってくれた。

「…おまえの強さは基本を忘れない所にあるようだ」

手塚は鉛筆を置いて真っ直ぐな視線を寄越してきた。
1ゲーム取れるかどうかの局面で筆を置かれてしまって、幸村は気持ちのやり場に困った。

(飽きてしまったのかな…)

いつもは柳が快く相手になってくれているが、彼はこの場にはいない。
もしかして恥ずかしい遊びだったらどうしようと不安になってきた。柳はやさしいから、うまく付き合ってくれているだけだとしたら。

「このコースは想定外だった」

「え…?」

手塚は、試合序盤の鉛筆の線を指さした。

「俺なら…」

こっちに落とすだろう、と点を打った。

「ああ、それもありだね」

幸村は素直にうなずいた。それが自然であるのも理解している。

「ならなぜここに」

「特別な理由なんて…取りにくそうだったから?」

手塚は少しハッとしてから、たぶん微笑ったと思う。

「そうか…真っ当だな」

「ぇ…なに。テニスってそういうスポーツだろ?」

幸村は何か間違ったことを言っただろうかと恥ずかしくなった。同時に、やっぱり手塚はテニスの感性が人とは違うのだと思う。
きっとテニスの考えがありきたりではないのだ。それがわかれば、手塚を超えられるかもしれない。
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