故意(恋)の風紀違反
幸村は教室で二人きりになるのを待って、真田の背中に抱きついた。
真田は、相変わらず教卓で気難しい顔をしながらプリントをまとめていた手を止めた。
あれから二年が経って二人は高校三年になっていた。
「…いい加減にしないか。いつまで続けるつもりだ。内申に響くぞ」
真田はやんわりと窘(たしな)めた。
反省のそぶりのない幸村の、最近髪型を変えたばかりの頭をわざとぐしゃぐしゃに撫でてやった。
以前までの髪型ならやさしく梳いてやったのだが、この頭だとこうしたくなるのだった。
「わ、やめろよ。くずれちゃうだろ、もぅ…」
幸村は、月一回の風紀チェックにわざと引っかかってくる。真田を見つけると、少しばかりうつむいて、ちらっと上目遣いをする。
いつしか真田も月一回のこの時間が楽しくなってきて、リスト表に幸村の名前を丁寧に書き入れている。
「風紀を守らない生徒にはどうするんだい?」
幸村が頬をすりよせてきて、真田はすぐさま唇を押しつけた。
「そんなのは決まっている」
きっといつもの展開を期待しているのだろう。
幸村は、とろんとした目をしていた。兆(きざ)しているのがよくわかる。
真田は、幸村の前髪を手のひらで上げた。
今は隠れてしまった額は、たまに見ると愛しい。こんな風に好きな時に好きなだけ幸村の額を見られる幸せ。
気がかりなのは、
「「悪い事」」
二人で微笑った。
幸村が真田の肩を小突いて、真田は幸村の額に自分の額をコツンとあてた。
最近ますます言葉が重なる瞬間が増えてきた。
ひとしきり笑うと、真田は幸村の前髪を整えてやりながら言った。
「いや、おまえはいつまで悪い事にしておくつもりなんだと思ってな」
こんなのは今さら聞くまでもなくわかりきっているのに、真田は言葉にこだわる質だった。
「俺たちも高三だ。そんなに悪い事なかろう。そもそも好き合っているのだから、悪いなんておかしいのではない…の、か…?」
真田が言葉に詰まったのは、予想に反して幸村がうつむいたからだ。
ついさっき兆していたばかりなのに、今はしょんぼりしている幸村の肩を揺すった。
「幸村、答えは…」
「…今日の忘れ物はちゃんと反省してる」
「は…?」
そういえば、今回の忘れ物はなんだろう。
そもそも、故意(恋)の風紀違反なんてとっくに見過ごしていたから、幸村の風紀チェックは無効にしていた。
真田は悪い風紀委員長になっていた。
不意に幸村が、ポケットから取り出した四つ折りのプリントを手渡した。
『ローションを忘れました。昨夜自分で使って鞄に入れるのを忘れました。夢の中の真田が激しかったのも悪いと思います。自業自得で残念だけど、今日は諦めようと思います。』
真田が読み終わると、幸村は自分の前髪を両手でくしゃくしゃにしていた。
真田は思わず目を丸くした。幸村が、あんまり正直で、過去一番気恥ずかしそうだったから。
予期せぬプレゼントをもらったみたいな気持ちになった。高校三年になって尚、あどけない幸村を見られたことが嬉しかった。
(ああ…好きだぞ幸村。俺はもう悪い事にしたくない。堂々とおまえとやっていきたいと思っている。だが…)
真田は、顔を隠そうとする幸村の手を取って、少し屈んで目の高さを合わせた。
「けしからんやつだ。誘っておいて、忘れましたはなかろう」
「…でも、あきらめられる?」
「フン…途中で音を上げるなよ?」
教卓の下に幸村を押し込んだ。
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