まだ誰のものでもない


立海のメンバーが全員バスに乗り込むのを確認すると、あとは幸村を待つだけだ。
予想に反して幸村はひとりでやって来た。
同乗の他校のメンバーも数人揃っていなかったから、てっきり誰かと連れ立って来るかと思っていた。

俺はつい席を立って外に出た。
距離が近づくと、幸村は首を傾げて俺を見た。

「遅刻…?ではないよね」

目の前の幸村の立海ジャージが、なんだか懐かしくて感傷的になった。
俺たちはもう日本代表のユニフォームを着ていない。
俺は現実離れしたひとときが終わったのを意識したが、幸村はどうだろうか。

「真田?」

悪いが、すぐには気の利いた言葉をかけてやれない。
くすっと幸村がはにかみ笑いをして、

「真田はフリーズするとちょっと口が開くんだよ」

小さい頃からそう、と唇に触れるすんでの所で人差し指を止めた。

「そ、そうなのか…?」

それが本当なら、ずいぶん長い年月幸村に情けない面構えをさらしていたことになる。

「…そういうことは、早く教えてくれ」

「大丈夫さ。俺の知る限り俺の前でしかその顔しないから」

それがよくないというのだ!…とも反抗できずに、幸村の前ではやっぱり帽子のつばで顔を隠すしかない。

「それからこれ。なかなか渡せなくて今になってしまった」

幸村が手のひらを開くと、うさいぬのキーホルダーが出てきた。

「日本から連れてきちゃった。真田らしいうさいぬを見つけたから」

数あるうさいぬのポーズから、なぜこれが俺らしいのかはわからない。
わからないが、俺にも幸村らしい花を選ぶことはできるのだからそれと同じなのだ。
そうやって前に花を選んだら、

『真田にとって俺のイメージってそうなんだぁ…』

と、良いか悪いか判断に困る反応をされたが。
俺は手のひらのうさいぬを見続けていた。

「いいよ気に入らないなら」

「ま、待て!いる!いるから寄越さんか!」

幸村を追ってバスに乗り込んだ。
逃げたところで、幸村は最初から俺の隣の座席と決まっている。


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