まだ誰のものでもない


「鬼さんと入江さんはご一緒ではないんですね」

「幸村君も。真田君や柳君はいないのか?」

ばったり会うと、幸村君から声をかけてくれた。
挨拶だけですれ違うのもあれだと思ってのことだろう。初めての世界大会でペアを組んだ高校生だからにすぎない。

「………」

「………」

話の糸口を見つけられない俺を許してほしい。
こんな時、鬼さんや入江さんのようなコミュニケーション能力が羨ましい。
沈黙は駄目だ。せっかく幸村君がチャンスをくれたのだから。

「俺は来年の世界大会が最後になる。幸村君はまた挑戦するだろうか?」

「挑戦したい気持ちはあります。でも選ばれれば、ですけど」

「消極的な物言いだが、その顔は自信がありそうだ」

「わかりますか?」

徳川さんの目は誤魔化せないな、と照れたように幸村君がいった。

「最後…徳川さんは二年生でしたね。次が最後なんてなんだか残念です」

俺の目に誤りがなければ、それは本心だろう。
でも確かめるのは躊躇った。

「俺…ハウリングのあのふわふわした感じはまた体験してみたいと思っていたので」

これはもう期待してしまってもいいのだろうか…?

「ふわふわ…とは」

「あれ?徳川さんは違いましたか?」

綺麗な瞳で見上げるから、思わず視線を外してしまった。

「そうだな…俺にはシバシバした感じに思えたが」

「あっは…!なんですか、それ。シバシバって」

眩しい。
こんな笑顔を隠していたのか。
これにはブラックホールも破られてしまうだろうな。
俺は幸村君の両手を両手で握った。

「また挑戦してほしい」

「次は体調万全で臨みます」

ありがとう幸村君。
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