まだ誰のものでもない


部屋を出て、引っ張るようにして幸村を連れ出した。
途中、猫を探すようにして歩く大石とすれ違う。

「おい、同室ならしっかり見張っとけ」

「やあ大石。越前くんなら俺たちの部屋に来てるから。怒らないであげて」

対照的な俺たちの様子に、大石は戸惑っていた。
いや、幸村の手を引いている俺にただならぬ雰囲気を感じ取ったか。

「幸村、その…大丈夫かい?」

「喧嘩じゃねぇよ」

「ふふ…だそうだよ。越前くんは関係ないから安心して」

何が関係ないだ。
大アリだ。

男子トイレに引き込むと、幸村は苦い顔をした。

「こんなとこ、キミに相応しくないね」

そんな幸村の唇をさっと奪った。
この俺が、焦りから妄動に走るとはな。

「どうしたの跡部」

幸村はうっすら頬を赤くした。

「まさかぼうやのお遊びの真似事じゃないよね」

「俺は真似は嫌いだ」

いつだって先に成功をおさめてやる。

「機嫌なおして、打ちに行かないかい?ぼうやに断られてしまってね」

幸村は少しだけ上向いて、鼻と鼻を触れ合わせるキスをした。
俺が目を細めると微笑うから、これはこれで悪くないと思ってしまう。

「ぼうやだと思って甘く見てはいけないようだ。ほんとうに、彼には驚かされてばかりだ」

「俺はあの一年に金輪際油断なんかしねぇ」

「跡部…」

きっと、俺たちは同じ悪夢を見ている。
いや、幸村はきちんと克服したんだろうな。
強いな。おまえ"たち"は強い。
抱きすくめた。

「…打ちに行こうよ」

「うるせぇ」

幸村の首筋に噛みつくようなキスをした。
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