まだ誰のものでもない


こうなる少し前、暇を持て余してた俺は通りかかった部屋の前で足を止めた。
同室の大石先輩からは、留守番を頼まれていたけど。
一か八か、ドアをノックした。
思い描いていた顔が出てきてほっとした。

「…ども」

「これはめずらしいお客さんだ」

ちょっと間をおいてから、幸村さんは微笑んだ。

「この部屋だけ広いのズルいっすね」

室内をきょろきょろしていると、

「跡部なら外出中だよ」

「別に」

見透かされたような気がして、俺はなんでもない風にソファーに腰を下ろした。

「ねえ、俺と遊ぼうよ」

世界大会も終わって、日本代表は数日余暇を楽しんだ後で帰国することになった。
この人が近くにいるのも残りわずかと思えば、そんな気分になった。

「キミから誘ってくれるなんてね。わかった。ちょっと待ってて」

同居人とは寝室は別だってきいた。
贅沢は別として、それはいいことだと思う。
その部屋から幸村さんが戻って来た。

「さあ行こうか」

ヘアバンドの下にあるのは、きりりとした眼差し。
肩にはラケットバッグを担いでいる。
俺は幸村さんを見上げた。

「別にそれじゃなくてもいいんだけど」

そこではじめて、手ぶらで部屋着のままの俺に気づいたようだ。
幸村さんは恥ずかしそうにヘアバンドに右手の甲をあてた。

「まあ、いいんじゃない?」

「よくない…」

俺一人で浮かれてしまった、と小さくなっている。

「遊ぶのって楽しいことじゃん」

この時も、幸村さんはぽかんとした顔をした。
でもすぐに眉を寄せると、

「やっぱり生意気なぼうやだ」

ぷいとそっぽを向いた。

「…それじゃあ、何して遊ぶんだい?選手タウンのどこか行きたい所あるのかな。迷子にならないように付いて行ってあげるよ」

今度は俺が拗ねる番。
自分の腕を枕にしてソファーに寝そべった。

「ぼうやってば」

「知らない」

「越前くん」

目をつむりながら、それはなんか嫌だなと思った。
この人にそう呼ばれると、なんか距離が開く感じがするのはなんでだろ…。
だからって、ぼうやってのもやめてほしいんだけど。
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