家族のカタチ
幸村は他人事のように事実を話した。
ーーー跡部はそのままでいいから。氷帝と家業をしっかり守るんだよ。後の事は俺と立海のみんなでやっていく。キミに苦労はかけたくない。
恐れていた現実に立ち尽くすしかなかった。
跡部が自分のした事の大きさに怯えていると、幸村がふわりと耳元でささやいた。
ーーー勃たなくなったのには俺も驚いたけどね、大丈夫。今は体が子どもを守ろうとしているだけみたいだ。しばらくエッチはおあずけらしい。残念ながら俺もそういう気分になれなくてね。
幸村がくったくなく微笑うから、この日の夜、跡部は声を殺して泣きながら寝た。
これからどうするとか、どうなるかとか、そんな類いの話しを幸村はしなかった。
跡部も、だんだん幸村から足が遠くなっていた。
いわゆる現実逃避なのか。
跡部景吾に限ってそれはまず無いだろう、と忍足と柳生は二人の行く末を案じていた。
「氷帝と立海の関係性はどうなるんやろなぁ」
「子どもは…幸村くんが…どうか安泰でありますように」
そして、とうとう幸村が立海のメンバーに事実を打ち明けた。
みんな驚いたが、幸村が望んだなら団結して保護するのが立海だ。ただし、あくまでも幸村とその子どもに限ってである。
「相手は誰だ」
今まで黙って話を聞いていた真田が、誰とも目を合わさずに口を開いた。
その口調から、相反する感情が入り混じっているのがわかる。
幸村のためなら、「おめでとう」を言うべきなのだ。
ただ一人、柳生だけが知っている。
沈黙に耐えかねて、口を開きかけた時だった。
「跡部景吾」
幸村が真っ直ぐな視線を真田に放った。
先に息を呑んだのは、ここまで真田の隣で感情を表に出さなかった柳だ。彼の頭の中では、どんな答えが弾き出されていたのだろう。
「おめでとさん」
仁王だけが、反応を示した。
丸井もジャッカルも赤也もうつ向いた。
「覚悟はできているんだろうな」
「ああ。わかっているよ」
沈痛な面持ちの真田と柳に対して、幸村は穏やかに返した。
座を見回せば、素直に泣いたり悔しがったりするメンバーが愛おしかった。
「おまえは当然だ。問題は」
「わかっているよ」
幸村は瞳を閉じた。
思い出すのはやはり、スーパームーンの夜だった。
あの夜ほど、跡部景吾という男の真骨頂を肌で感じた事はない。
自分が考えているよりも、ずっとずっと、自分は愛されている。
(跡部も同じだといい。月の力なんて関係なく、自然のなりゆきで)
ツクン、と臍の下の方が痛んで手をあてた。
