家族のカタチ
この日、跡部は久しぶりに訪ねて来た母親の話し相手になっていた。
彼女の家業は極秘裏な内容も多くていつも興味深い。
そのうちあなたも、というニュアンスが込められていないでもないが、今は流して聞いている。
そこへ、廊下を通る三人分の足音が耳に入ってきた。
通り過ぎる話し声がひそめいているのが、かえって目立つ。
「突然お願いして申し訳ありません。しかし忍足くんの方がこの道にお詳しいと思いまして」
「ええよ。立海と氷帝…困った時はお互い様や」
話し声の主は、立海の柳生とこちらの忍足だ。
あともう一人は誰か。
いつの間にいなくなったのか、お喋りしていたはずの母親の姿がない。
…戻って来た。
「あの子、おめでただわ」
え、と跡部は美しすぎると評判の顔を見た。
「スカーフで顔を隠していたけれど男子だわ。…パートナーは間違った選択をしましたね」
長いまつ毛を伏せて、静かに椅子に腰掛けた。
やがて不思議がる息子の様子に気がついて、母の方がびっくりした。
「あなた…忘れたの?スーパームーンの夜は禁忌と教えましたよ。あなたはその素質を持って生まれた一握りの男子だから」
言われて思い出した。
中学一年だった。当時は男同士の性交渉なんてあり得ないと決めつけていたから、右から左に聞き流していた。息子の秀でた容姿を心配しての、からかいだと思っていた。
それから幸村を知って、夢中になったのが中学三年の世界大会が終わってからで今に至る。
母の忠告を頭の隅に置き忘れたまま、あの日、たまたまスーパームーンの夜に幸村と何がおこったか。
「…いえ。忘れていませんよ」
スーパームーンの神秘が、跡部の生まれ持った素質に働きかけたのだ。
それが刺激になって、いつもより感情的に幸村を抱いた。普段は抑えている「好き」という気持ちが表面化して、やがて積極的に幸村を…
「男子の妊娠はリスクが高いから、あの子も苦労するわ。景吾、あなたなら良い選択をしてくれますね?」
母親はそれ以上何も言わずに帰っていった。
